3話

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3話

私がお兄ちゃんに対して 普通の”好き”を超え始めて "恋"と自覚し始めたのは 12歳の頃だった。 その頃は学校が終わると いつも仲がいい友達を家に招きこんでは おままごとをしたり、少し気になっている クラスメイトの事を話したりと なんら変わらない 普通の小学生だった。 でも、当然まだ実家暮らしだった お兄ちゃんも学校が終わり同時刻に家に居た。 なので私の友達は家に来ると お兄ちゃんと面を合わせる事が多かった。 [未来ちゃんのお兄さんカッコイイね] [あんなに顔イケメンなお兄ちゃんもてて羨ましい] [私、惚れちゃったかも] 私の友達は皆、口を揃えて お兄ちゃんを褒めたたえていた。 最初は遊びが目的なのに お兄ちゃんの話題を出されると 嫌な気持ちがして 嫌悪感すら存在していたけど だんだん 私の……お兄ちゃんってカッコイイんだぁと 思うようになった。 確かに言われてみれば 爽やかだし、筋肉ムキムキだし、 頭脳明晰だし、目はクリクリしてるし あれ?良い所しか出てこないや 全部長所しか出てこなかった 私はなぜかすこしムキになって 短所をどんどん上げようとした。 ………でも出てこなかった。 「ドンドンドンドンドン」 軽い虚無感を感じていると 部屋のドアが外からノックされているのに気づく。 「寧々、入るぞ」 男らしい低音と少し荒々しい声が 耳に届いた。 それはいつものお兄ちゃんの 声色だったが、この日は なぜか違う声に聴こえて まるで初めて耳にする不思議な感覚を覚えたのを未だに記憶している。 お兄ちゃんの姿が見えると 私はまるで好きな芸能人を 目の当たりにしたかのように 心臓の鼓動が一気に高まり 「うわぁ」と 口から意図せず喜びのサインが溢れてしまった。 「いきなり入って悪い」 お兄ちゃんは私がノックする前に 返事をせずに入ったせいで 驚いたと思い、軽く頭を下げた。 少し天然なところも なんだか可愛く見えちゃう…… 「前に借りてたペン返すわ」 そう言うとお兄ちゃんは手に持っていた ボールペンを 私目掛けて雑に放り投げて返却した。 空中に舞ったペンを私は 慌ててキャッチした。 無事に返却されたのを確認すると お兄ちゃんは 「サンキュー」と 不躾に言い放った。 この光景も慣れたもので いつもなら 強引に返すお兄ちゃんに向かって 「ちゃんと渡してよ」 呆れた表情をしながら、このワードを 毎回言い放つのだ。 しかし今日ばかりは 口が動かず、それに呆れ顔さえ 出来ていなかった。 しばらく沈黙の間が続き 私からいつもでる言葉が 出ずに不審に思ったのか お兄ちゃんは拍子抜けしたような 間抜け顔を晒している。 その傍から見たら ドジっぽい表情をしている顔でさえ 愛おしく感じる…… お兄ちゃんはその固まった顔のまま 部屋を後にしたが 残された私は 内面から少しずつ少しずつ 熱が上がってくるのを感じ 鏡こそ見ていないものの 顔は赤く火照っていたと思う。 この日を境に兄妹というラインを超えて "異性"としてお兄ちゃんを見始めた…… そして普通に接することが日に日に難しくなってきたのも 今日から起こり始めた。
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