1話

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1話

あぁ今夜は寝られない。 何度、目を瞑ってみても まぶたの裏には 漆黒の闇しか見えず それに悶え苦しんでは 起き続けている。 かれこれ微睡みが私を誘い込んでから 2時間ほど経っているだろうか 部屋の壁時計を確認すると 時刻は24時32分をさしていた。 普通なら夜更かしといわれる 深夜の時間帯まで 目を覚ましていたのは久々だ。 なかなか寝付けないのは 昼寝したからでもなく スマホをいじっていたからでもない はたまた明後日行われる 期末テストの勉強が不十分と感じて 不安に襲われて眠れない訳でもない。 原因は分かっていた。 それは隣の部屋にいる"兄"のせいだった。 「開けろ! 開けろぉぉぉ」 耳の鼓膜が破れそうなほどの奇声を出しながら 私の兄、鈴宮涼は激しく 部屋のドアを叩いている音が 嫌でも耳に入ってくる ここしばらくは 発作が起こらなかったのに 今日はその"発作"が出てきてしまった。 あぁ可哀想な涼。 なんとも無情な助けを外に求めている。 まるで監獄に囚われた 囚人のようなイメージが 私の脳内を埋めつくした。 どれだけ喚き散らしたところで 現実は変わらない。 涼も早く察して大人しくしてればいいものの こんな暴れているようじゃ いつか体力消耗して朽ちるんだろうな… なぜなら 涼の部屋は外に着いている ドアノブをとっぱらい 代わりに電卓のような数字の並びになっているナンバーキーをつけて パスワードを知っている人しか開けられない 仕組みになっている。 必要最低限以上の外部の侵入を拒む為だ。 ちなみに 内側からも絶対に開けられない 密室の四角い箱の中に 閉じ込められているんだよ。 このシステムに気づかない 涼は狂ったように 大声を発している。 その影響なのか 住処としている私の部屋も 涼が声帯を震わせている間 少し振動している気がする。 その揺らぎが まるで小さい頃両親が私を眠りにつかせるために使った ゆりかごのような 安心感を与えてくれている。 耳障りな騒ぎ声を聞き流しながら 目を閉じ、 涼の部屋に貼ってある 「立ち入り禁止」 「近づくな危険」 という貼り紙をふと思い出しながら 私は夢の中へと誘われていった。
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