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姫をさらう魔王…
「あ、あああ!!返せ!私の娘を返せっ!」
王宮に王の悲鳴がこだました。 王は玉座から立ち上がって、わなわなと震えている。
王の視線の先には、大事な一人娘である姫と――魔王だ!
姫は魔王に体をつかまれ、身動きがとれない状態だ。
これはまずいぞ!
顔を真っ赤にしてわななく王に、魔王はにやりと笑った。
「ふはははは!姫は俺がもらっていく!」
「きゃあ~!助けてえっ!」
高笑いする魔王と、黄色い悲鳴をあげる姫。 ――黄色い悲鳴? そう、姫は怖がっているどころか、どこか嬉しそうなそぶりを見せているのである。 だが、王はそれにちっとも気づくことはない。
「姫!早く、お父さんのところに避難するんだ!」
「でもお~、こんなに強い力で抑えられてちゃ、動けな~い!」
「ぐっ……くそう!わが城の警備はなぜこんなにも甘いのだ! そのおかげで、今にも私の大切な姫が、さらわれようとしているんだぞ!」
王は魔王に股間をけられてうずくまっている兵士に怒鳴った。 兵士はもんぜつしながらも、おずおずと答える。
「わ、分かってますよ……ですが、わが国の景気はあまりよくないですから、城にかける防衛費も、あまり残っておらず…」
「くそう!」
王はじだんだをふんで叫んだ。 それを見た魔王が、ふふんと嘲笑する。
「残念だったな!姫は俺がいただく!」
「きゃああ~!嫌あ~!!」
やはりなぜか興奮気味の姫を、魔王は抱きかかえると、マントを翻し、空中へ浮かび上がると、そのまま飛び去って行った。
「姫~!!!必ず、魔王城に勇者を差し向ける! それまで待っていてくれえ!」
王は魔王に連れ去られる姫に、大声でそう誓った。
*** ――そして場面はところかわって、ここは魔王城。
モンスターが群生する森や、巨大な山脈や、灼熱のマグマ地帯を乗り越えた先の辺境の地に建てられている。 その城の中にある一室に、魔王と姫は対峙していた。
魔王は腕を組みながら姫を見下ろしているが、姫は誘拐された身であるというのに、床でごろごろくつろぎながら漫画を読んでいる。
「……いいのか、本当にこんなことをして」
魔王が声を漏らした。 彼はどことなく、困った顔をしている。 が、姫は涼しい顔で答える。
「だってえ、あんな城で教養とか学ばされて、行動縛られるより、ここで自堕落な生活送るほうが楽しいんだものぉ!」
「……お前の気持ちも分かるがな、父親も心配するぞ。 現に今、急いで勇者を集めようとしているに違いない」
「あんなハ〇おやじなんか興味ないしぃ!」
「……哀れな国王だな」
魔王はそっとため息をついた。
「これでお前をさらったのは何度目だ? 十二回目だったか?」
「ううん、十五回目だよ。 そのうちの三回は、誘拐未遂で終わったけど。 勇者に邪魔されて、もー最悪だったよねっ!」
「何度も誘拐を許すほどザル警備な城のほうが異常だ」
姫は魔王の言葉を無視して、はじける笑顔で提案する。
「ねえ!ジェンガしようよ! この前、途中で勇者に邪魔されて、強制帰宅されたからさあ!」
「……はいはい」
まったく、また俺は姫のお遊び役にならないといけないのか。 魔王は仕方なく、ジェンガを取りに行った。
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