【番外編】番外編 今夜、君の隣に眠る

11/18
3088人が本棚に入れています
本棚に追加
/123ページ
 違和感を覚えつつ集めた資料をどうやって柏木社長と会うべきか悩んでいた。この資料をマスコミなりにリークして騒ぎにすることも可能だ。  昔はそうしてやろうと思っていた。KMシステムズの名を落として、柏木社長を社長の座から引きずり下ろす。  でも今の目的は、そこじゃない。この過去にしっかりと向き合って俺は前に進むんだ。  そのとき柏木社長が倒れたと業界でも騒ぎになった。しかも思ったより症状も重く、KMシステムズの今後も案じられた。  彼には娘はいるが経営にはノータッチで後継者と呼べる人間が身近にいない。当面の間だけでも役員の誰かが社長の座を引き継ぐのか。  情報が飛び交う中、これはチャンスだと思い柏木社長を見舞うという名目で彼を尋ねる。俺の名前では警戒されるのを考慮しRADソリューションの代表として信二さんの名前で会う約束を取り次いだ。当日、代打で俺が来たと説明すればいい。  もしかすると向こうは顔どころか、名前さえも彼は覚えていないかもしれないが。 「はじめまして。RADソリューションの佐竹の代わりに来ました。五十嵐と申します」  病室で初めて柏木社長と対峙した。ずいぶんと痩せ、白髪交じりの髪は乱れているが、ベッドからこちらを値踏みするような鋭い眼光は、トップに立つ者の貫禄だった。  秘書の崎本がそばにいないのを確認したうえで本題に切り込む。 「五十嵐紘人です。数年前、KMシステムズの暗号資産における情報システムの開発に当時、大学院生として携わったんです」  彼はどんな反応をするのか。すっかり忘れているのか。激昂して追い出すのか。
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!