12.私が経験した出産について思うところ

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12.私が経験した出産について思うところ

出産当夜  さて、一応は出血多量の吸引分娩ということで私は他の妊婦さんよりは重病人扱いで大部屋へと帰った。出産直後の体重に興味があったのだが、引き続き血圧も心拍も高いので体重計に乗りに行くこともできず……(ちなみに翌日の早朝測りにいきました。ちょうど4キロ減ってたんだけど……え、胎児3250gあって血液1リットル出てんのにそれしか減らんの?)。  消灯前には赤ちゃんも部屋に帰ってきて、特に異常なしとのことで母子同室できますけど、どうされますかと訊かれたので今夜から一緒でとお願いした(これ確認されたってことは本当に重症扱いだったのかもしれない。普通分娩の人は有無を言わさずすぐ母子同室なので)。  生まれたての息子はヒャンヒャン泣いていた。なんか泣き声変じゃね? と思ったがまあ生まれてまだ数時間だしな、と一度は納得。……したが、それから数週間後の今も情けない感じでヒャアア~とか泣いているのでどうやらこの子の個性らしい。  大部屋に響き渡る声で泣く息子を見て私はこう思った。  吸引分娩だったから、何か怖い思いをしたのに違いない! と。  いや、たぶん自然分娩の子も帝王切開の子も泣くんだろうけど。私はその時そう思ってしまったのだ。それで、息子の頭を撫でながら「ごめんね~」と謝ったりしたのだが……果たして息子は自分が吸引されたことに気づいているのだろうか?  この時点で私の方はたぶん麻酔は切れているが痛み止めが効いているのでそこかしこ、そんなに痛いとは思っていなかった。陣痛中はもう頭がぼんやりして「痛い」以外の言葉もほとんど浮かばなかったが、あれから五時間ほど経過した現在はようやく頭がまわってきた感じがする。  産後ハイなどという言葉もあるが、私の場合はなんだか疲労感が強く、とりあえず寝ておこうと思った。すぐそばでヒャンヒャン泣いている子が気になるが……。  ベッドに横になって数か月の癖でついお腹に手をやると、急にぺったんこになっている。  すぐ隣には身長50センチの小さい人間がいるが、この大きさの子がよくこの中に入っていたなあと思う。どれだけ小さく丸まっていたんだろう。つい昨夜、いや今朝までお腹の中で蹴ったりもぞもぞ動いていた子が、今はそこで背中をのけぞらせて泣いている。  ふとお腹が今どんな様子か見たくなったが、子は泣いているし身体を動かすのが億劫でそれどころじゃなかった。満身創痍でゆっくりしか動けないものの、寝返りは打てたしベッドの柵を使えばゆっくり起き上がることもできた(腹筋が壊滅しているので上腕筋で起きました)。  ようやく生まれた我が子を抱き上げて見よう見まねであやしてみる。生まれた直後から赤ちゃんは柔らかくてぷにぷにしていた。特にほっぺの触り心地がよい。しっかり40週在胎した間に、脂肪とか結構蓄えたんだろうか。  出産体験を振り返って、よくある質問「陣痛ってどれくらい痛い?」に私なりに答えてみると、「ダンプにハネられたより痛い」とか「鼻からスイカ出すくらい痛い」という感じではなかった。私が感じた痛みを言葉で表現すると「スライムを潰してニョローっと絞り出すような痛み」無論この場合のスライムは私自身だ。なので、どう考えても「キャー!!」とか叫ぶような痛みではない。  もしかしたら陣痛は人によって種類が違うのかもしれない  と強く思った。私はいきむときも「んぬぬ」とか「ふんっぬ!」と踏ん張ったので、高らかに声を上げる感じではなかった。比較的静かだったはずだが、いきみ逃しで小野Dみたいな声が出ていたので「絶対笑ってはいけないLDR」みたいなことになっていたと思う。  医師の皆さん、助産師の皆さん、その節は誠にありがとうございました。確かに私は必死でしたが、それにしても、皆よく笑わずにいられたなあ~。笑っててもよかったんよ……?  しかし陣痛は本当に「人生でいちばんの痛み」だったのか? というと疑問もある。私は若い頃、深夜に謎の腹痛に見舞われ救急車を(自分で)呼んだことがあるのだ。その時も散々「陣痛じゃね? 妊婦は救急で来られても困るよ~」とたらいまわしにされまくったんだが(絶対妊娠してないと言い張って受け入れてもらえて総合病院で救急治療。なお、原因不明で痛み止めだけ点滴されて帰された)、あの時とどっちが痛いのかよく分からなかった。痛みが数時間(場合によると数日)続くという意味では陣痛の勝ちかもしれないが……単独交通事故で救急搬送された時も激突した瞬間の痛みはものすごかったしなあ? たぶん「銃で撃たれた」とか「ナイフで腹刺された」とかいう経験がある人からすると、陣痛は人生で一位の痛みではないんじゃないかと思う(あくまで個人の推測です)。  全然来ない陣痛に振り回された出産だったが、振り返ってみると陣痛というのはなかなかよくできたシステムではある。痛みが段々強くなるから、少しずつ出産に向けて覚悟を決めることができるし、何しろ痛いので嫌でも出産に集中する。そして「規則的に激しい痛みを繰り返す」ことの意味がやっと私にも分かった。最後の「いきみ」の段階に入った時に陣痛にタイミングを合わせて産めるように、規則性があるのだ。ずっと痛いだけだといついきめばいいか分からんし。ただし私はこのタイミング合わせがうまくなくて、やたら時間がかかってしまったようだが(子は子で回旋の方向間違えてたし)。  妊娠する前からずっと「なんで出産時に痛い思いをせなならんのか。進化の方向明らかにおかしいだろ」と思っていたが、おかしくないのだ。病院もモニターもない野生の動物が出産する時にいちばん分かりやすいのが「陣痛」だったんだと思う。少なくとも私は、陣痛があって産みやすかったと思っている。痛いは痛いけど、気絶するほどではないってのも絶妙だ(単独事故やったときは一瞬気を失った)。  私にとっては陣痛はそこまで辛いものではなかったということだ(いや、できたらもう二度と体験したくないけど)。  その後はなだれ込むように赤ちゃんのお世話が始まり、スパルタ母乳学園と化した産院で夜通し授乳したりして大変だったが、今回の出産でいちばん辛かったのは促進剤二日目に全然効かなかった時。あの時は本当に、出産諦めて帰ろうかと思った。でもどうにかこうにか産まれた我が子。  やっときみにあえて、よかった。  ところで。実は入院中ずっと気になっていたことがある。  私、出産時に大量出血したし、赤ちゃんのバイタル下がってなんかアラート鳴ってたじゃん? 酸素マスクも降りてきたし。  あれって実は何か危険だったりしたのかな? もしかして私か赤ちゃん、死ぬ可能性とかあったんかな?  これがどうしても気になっていて、退院前検査で診察してくれたあの寡黙な医師に質問してみた。 ①アラート鳴っていましたけど、あの時赤ちゃんに何か危険はあったんですか? ②私は大量出血していたようですが、私は私で危険な状態だったんですか? これに対する医師の回答は以下の通り。 ①いいえ。さほど危険ではありませんでした。 ②いいえ。まったく危険ではありません。1リットル程度の出血はよくあることです。  だ、そうです! ということは、私は初めてでなんかもう必死だったけど、医学的にはそんなに難しい案件ではなかったということ。実際、予後もよいし息子も今のところ健康そうだし、問題はないのでしょう。  いやしかし、お世辞にも安産とは言いたくないけどな。吸引分娩になっちゃったし。  分娩所要時間6時間33分で記録されてるけど、その前に13時間くらい促進剤入れてますから。っていうか、体感としては産むのに一週間かかってるからね、私的には!  そして。どうにかこうにか長かった入院生活も終わり、退院した日。家で一人待っていた夫は、見るも無残にやつれ果てていました……一人暮らししたことなくて、孤独に耐えきれなかったようです。たった二週間でやつれるか、普通!!  げっそりやつれた夫を見て思った。これ、コロナがなくてほんとに立ち会い出産してたとしたら、夫ビビリ倒してたんじゃね? 小野D出たあたりでは笑ってたかもしれんが、その後の吸引決定とか酸素マスクとか大量出血とか目の当りにしたら関係ない夫が倒れてさらに助産師さんの仕事が増えた、とかあったかもしれん。(私が)肩身の狭い思いせずに済んで、かえってよかった……。これに関してはコロナGJ!! と言わざるを、得ない。
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