1.突然の宣告

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1.突然の宣告

39週D1  その日はいつもの妊婦検診。予約済みの産院でいつものように受付を済ませ、いつものように長々と待たされ、そしてやっといつものように医師に呼ばれた。 「これ、早く産んでもらった方がいいなあ」  診察の結果、医師がぼそっとそう言って、もう一回待合室に戻された。いやいや私だって早く産みたいんですよ? お腹ぱんっぱんで重いし苦しいし。先週まではせっせと歩ける元気もあって動物園とかなんだとかかんだとか行って運動してたけど、なんかもうそんな気力も湧かないしで。  全力で逆に問いたい、どうしたら早く産まれるのかと!!  などと考えていたら今度は別の医師から呼ばれてあっさりと言われた。 「たぶんね、待っていても自然に陣痛来るとは思うんです。でも、いつになるか分からないし、それより先に入院して早く産んだ方が母子ともに安心ですよね。うちとしては、入院をおすすめしますがお気持ちはどうですか?」 「へ? 入院? ってあのー……今から?」 「そうなりますね」 「いや、入院セット取りに一回帰らないと! 夫に連絡もしないとですし」 「検査とかもあるんで一時間で戻れるなら一回帰ってもいいです。何か食べてきた方がいいし」 「一時間……! 分かりましたすぐタクシー捕まえます」  あれよあれよと言う間になんか強制的に入院が決まり……とにかく慌てた私は仕事中の夫に連絡。夫は仕事を中抜けして送迎してくれるという。そういうことならと、とりあえず駅前のパン屋でパンを買う。  今日から、入院! ということは当分減塩食決定であるッ……!  私はバターたっぷりのめんたいフランスをかじりながら夫を待った。  さようなら私の塩分さんたち……  夫はほどなくして駅前までやってきた。事情を再度説明し、帰宅して忘れ物がないか確認後、留守中にやってほしいことなどをくどくどと伝えて病院へとんぼ返り。なんとか約束の時間には間に合ったのだが。  夫と二人で入院の説明を受け、同意書(めっちゃいっぱい)にサインサインサイン……なんだかよく分からないうちに入院手続きが完了し、そして私は連れて行かれた。  診断は「妊娠高血圧症候群」一昔前は「妊娠中毒症」なんて言ったアレである。とにかく妊娠状態に耐え切れず母体の方が限界を迎えて身体がボロボロ。でもそこまで深刻な病状ではないらしく、医師の見解は一律「産めば、治る」。  その日の夕方から病室(お金がないので大部屋)へ行き、あれよあれよという間に夕食の時間となった。係の人が「お名前と生年月日の確認願います」と言っているのがうまく聞き取れず(実は私はこの地方出身でないのでたまにこういうことはある)ぽかんとしていたら配膳係は笑って「お名前合ってますよね?」と言ってきたので私はこくこくと肯いた。  何が何だか分からないうちに、管理入院させられてしまった……しかももうシャワー時間終了したから今夜はシャワーもなしとか。最悪の極みである。ぶつぶつ言ったら清拭用タオルが出てきた。文句の一つも言ってみるもんだな!  こうして九時半(!)に消灯し、私の入院生活は突如強制的に始まった。  もう何も考えられなくなったから、とりあえず、一回寝よう!  私は布団をひっかぶり「どうしてこうなったどうしてこうなった」と思いながら遠く赤ちゃんの泣き声の聞こえる病棟で……わりとすんなり、眠りについたのであった。
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