4.はじめての促進剤

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4.はじめての促進剤

39週4D  朝の回診で病室に来た医師に「あの~これっていつ産まれるんですか?」と訊いてみた。医師も困って「さあ、いつだろうねえ」とのこと。  いつだろうじゃねえよ!! もうすぐ月末だよ?! 限度額制は月額で計算するから月またぐとまた請求増えますがな……!(必死)  という思いでなんて言おうか考えていたら、助産師さんたちが代わりに言ってくれた。 「センセ、まあおさん早く産みたいって言ってましたよ」 「早く産みたい?! そうかー。じゃ、産もうか!」 「よかったね、まあおさん! このあと診察して、うまくすれば今日産まれるよ」  え、今日? いや、私は望むところだけれども。っていうか、そんな軽いノリで産んじゃうんだ? まあそら、毎日誰かしらが出産している現場だしこんなもんかもしれんけど。  よく分からないままに着替えを促され診察へ。天岩戸は4センチまで開いているとのこと。  ……また勝手に開いてる。4センチ開いてて、なんで陣痛だけ来ないのだろう。まさかこのまま陣痛なしで最大までじわじわ開くつもりなのか? などと若干オカルトちっくなことを考えていたら、あれよあれよと陣痛促進剤を点滴で入れられ……  うん。なんか、お腹が痛いですね? お腹っていうかここまで膨張する前に私の子宮だった場所がじわじわと、痛くなってきました。どうですかと訊かれてそう答えた私に、担当助産師さんがニコニコしながらこう言った。 「じゃあ、ちょっと薬が効き始めたかも。滴下数あげますね~」  えっ。なにそれ。痛いのに、まださらに点滴の速度上げるってこと? その後も30分とか1時間おきに現れては、ニコニコと点滴の速度を上げてゆく助産師さん。ちょうどお昼には、はっきりと「ああこれが陣痛か……!」と思うような規則的な痛みを感じることができた。  感じることができたっていうか、痛てぇえええ~。  昼食はここへ来て初めてのパン食。持ってきてくれた別の助産師さんがモニターをみて「陣痛きてますね。今で2分間隔」などと言うが、2分かどうかはともかく、痛いこと痛いこと。 「ごはん食べられそうだったら食べてくださいね」 「食べます、食べられます、はい」  実際、まだ完食できる程度の痛みだ。とにかく薬で無理くり子宮を収縮させているらしく、体内に何か巨大な風船でも入れられたよう。その風船がパンパンに膨らむと、じわじわと、痛い。何か運動しているわけでもないのに、ぐつぐつと身体が熱くなってうっすら汗ばんできた。が、まあ別にごはん(パンですけど)食べられたし、なんか喋っている余裕もあった。  腰がじんじん痛くて、そういえばこんな時のためにカイロ持ってたのに病室に忘れてきちゃったなあと思った。  午後にはいよいよ薬が効いてきて、痛い以外に何も考えられなくなってくる。毎回「痛いです……」と言っているのに、助産師さんは「そうですか」と言ってさらに滴下速度を上げている。とうとうマックススピードになったあたりで、ついに痛くて笑けてきた。 「ははは、なにこれ痛ぇ~」  腰とお尻がガンガンに痛い。天岩戸から血も出てきた。もうこの頃には、一人でトイレに行くのも困難なほど。だがこれだけ痛いのに、夕方様子を見に来た医師は「なんかあんまり効いてなさそう。もし現時点で6センチとか7センチまで開いてたら続けるけど、そうじゃなかったら今日はここで終わりね」と言う。どうも、もうすぐ定時だからということらしい。  そして医師は私の岩戸を確認して言った。「あ~、朝とあんま変わんないね。4センチってとこだ」  これにて本日の拷問……じゃなかった治療は終了。私は促進剤の点滴を止められ、しばらく休んだのち解放された。  朝から6時間も痛みに耐え続けて、天岩戸は変化なし……!  なんのために痛いの我慢していたのか。本当にこんなんで、子どもは産まれるのか。っていうか、促進剤効いてなかったわけ? いやでも確かにさっきまでお腹めっちゃ痛かったしなあ。  私の中で様々な感情が入り乱れる。そしてこれだけ汗だくになったのに、シャワー時間は終了してしまったのもまた絶望的だ。と思ったら、お昼ごはんを運んできてくれたのと同じ助産師さんが「シャワー入って今日はゆっくり休んでくださいね」と言ってくれた。い、いいんですか、時間外に! 「今日は疲れましたもんね。促進剤一日目は下準備なんですよ~、明日またやればきっと……」  そうかよしよし、なんだかよく分からんけれども明日に賭けようじゃないか。  熱いシャワーを浴びた後は、昼間の痛みはウソのようにすっかり消えてなくなった。やっぱり本物の陣痛でないと、産まれないのかなあ~などと思いながら、今日もまた病室の夜が更けてゆく……
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