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8.そんな夢をみました
40週1D
予定日を一日超過して。明け方、珍しく怖い夢に驚いて目覚めた。
ああこれ夢だわ、と理解したのに心臓がまだバクバクしている。
夢の中で私は大きなお腹のまま軽自動車に乗っていた。運転席ではなくて助手席……なんだけど、ふと見ると運転者がいない。サイドブレーキが甘かったのか、坂道を軽自動車はゆるゆると進んでいく。
あ、これアカンやつやん。止めな……!!
とすぐ気づいたのだが、折しも前方に見ゆるは……大型トラックじゃね?! あれなにこのテンプレ展開、などと思う間もなく私を乗せた軽自動車がスピードを上げてトラックに向かって突っ込んでいく!
ああこれ死んだわ。死ななくてもエアバッグ出たら赤ちゃん死ぬわ。
どこからともなく「キャー」と鋭い絶叫が聞こえ(私は叫んでなかった)、トラックがけたたましくクラクションを鳴らし……そして
するり。
ここはよく分からなかったのだが、軽自動車が小さくなったかトラックが大きくなるかして。私は目を瞑っていたのだが……次に目を開けたとき、軽自動車はトラックの車体の下に滑り込んで、止まった。エアバッグも出ず、お腹も痛くない。どうやら無事のようである……
いやいや、どんな夢だよ?
と思うと同時に怖かったなあと胸をなでおろす。そしてよく言って感受性豊かな、悪く言って妄想癖のある私は思った。赤ちゃんも産道通るの、怖くて出て来られないんじゃね? と。
フロイトとか特に勉強してないけど、なんとなく思った。さっきの夢は出産の暗示で、私が赤ちゃんの立場で、軽自動車は陣痛促進剤なんじゃね? と。まだ心の準備のできていない赤ちゃんからしたら、運転者のいない軽自動車で坂道転がるくらい怖いんじゃねえの? と。
そう思うとなんだか赤ちゃんに悪いことをしている気にもなるが、しかし赤ちゃんよ……今は快適なのかもしれんが、早くそこ出ないと大きくなりすぎても出られなくなるし(すでに推定で3キロ超えだしてる)、私の血圧が上がり切ったらヤバくなるし、なにより、あんまりもたもたしていると胎盤がアカンことになるんだぞ?
ぶっちゃけ私の体力も精神力も、その上お財布事情も限界だし
こちらの都合で申し訳ないけど、今日こそ出てきて!!(懇願) とはいえ、嫌な予感もあったりする。実は昨日の夜からナースステーションがバタついている。ここの部屋にも次の人が入る準備をしている気配があった。
どうも昨夜から、出産ラッシュなんじゃないかとぞ思ふ……
この病院にLDR(※)は4つと分娩室がひとつ。基本的には入れ替わり立ち代わり使ってるから全部埋まることはないはずだけど、場合によっては長くかかっている人もいるだろうし……まだ陣痛が来ていない私は優先順位的に明日に回される可能性もある。
そもそも今日、処置してもらえるか分からないのだ。
いや、でも先週の時点では今日もやるって言ってたし。なにより、一般的に陣痛が来て入院するのって断然夜が多い。昼間に急に陣痛だの破水ってそんなにたくさんはいないはずなんだよ。だからこそ、私のように管理入院して医学的助産する人が「定時」=昼間に処置されるというのは、非常に理にかなってはいると思った。
私は夜は産んでないから分からんのだけど、夜勤の医者一人の時に産まれそうな人五人とか来たらどうするんだろうね?
とにかく私としては。今日、なんとしてでも産みたい! 予定日も過ぎたし促進剤二日やったし、そろそろ。もう、そろそろ産んでとっとと家に帰らせてよ~!!(懇願)
これで今日は待機とか言われたらやさぐれちゃうんだからな!!
そんな気持ちを汲んでくれたのか、それともやっぱり昼間は陣痛室が空いているのか。午前九時、医師に呼ばれて診察が入り……天岩戸はあいも変わらず5センチのまま。
とりあえず三回目の促進剤は今日やってもらえることになったのだった。
※LDR 陣痛・分娩・回復室。昔は陣痛室と分娩室は別だったのだが、最近では一体型の産院も多い。出産時に移動しなくて済むので妊産婦にやさしい方式なんだとか。ちなみに、最初にやりだしたのはアメリカらしい。
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