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「なあ……」
茂樹は被服室の入り口に棒立ちになったまま、掠れた声で問い掛けた。
「お前、馬鹿じゃないのか。なんでこんな時期にあんなことしたんだよ」
秋生は答えない。抱えた膝に顔を埋めた。
「こうなるかもってわかって――」
そこで茂樹はハッと言葉を呑み込んだ。
違う。
違うのだ。
きっと、真相は。
「もしかして……」
先を続ける必要はなかった。秋生がゆっくりと頭をもたげ、微かに頷く素振りを見せる。茂樹は堪らず駆け寄った。
「だったらなんで正直にそう打ち明けないんだ! 本当はそんなことしてないって、全部澤村の嘘だって――」
「言えないよ。そしたら花純ちゃん、もっと傷付くじゃない」
「いいだろ、あんなやつ」
「だめ。それにさ……オレって確かに、最低なやつだもん。人の恋人に近付こうとして」
ぽつり、ぽつりと。
少しずつ、秋生は真相を打ち明けた。
秋生はゲイだ。彼が好きだったのは、最初からずっと徹だった。
花純に近づいたのは、その彼氏である徹に近づくため。でも、だからといって何かの関係を望んでいたわけじゃない。ただ、花純のネイルを褒めてくれる、あの一言がもらえればそれで幸せだったのだ。
言い寄ってきたのは花純の方だった。彼女とて本気ではなく、ちょっとした遊び心だったのだろう。それでも、秋生は正直に断った。
プライドを傷つけられた花純。その後のことは周知のとおり。
「言えなかった……言えなかったよ。人の女に手を出す最低男だって言われる方が、ゲイとしてのオレを拒絶されるより、ずっとずっとマシだったから」
オレは弱い人間だ。
秋生はそう小さく呟いた。
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