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***  客席で見るファッションショーがこんなにも切ないものだとは思わなかった。  秋生がまだ中学生の頃。初めてこの高校の文化祭に来て、同じように客席で被服部のショーを見た。ランウェイを歩く女子生徒たちはうんと大人びて見え、雑誌で見るコレクションの何倍も輝いて見えた。  眩しかった。  あの頃は憧れで。  今は単に、スポットライトが涙に滲む。  部員たちは皆秋生を憐れんだ。けれど、彼女たちの誰一人として、代打のモデルを名乗り出てくれる者はいなかった。そんなものだ。どうせ、そんなものなのだ。  音楽が流れ始める。みんなで選んだバックミュージック。舞台袖から登場するモデルたち。  きっと、同じように舞台袖では、部員たちが最後の確認をしている。自分のモデルに向かって「頑張って」と声を掛け――それは秋生が花純と交わすはずのやり取りだった。  ダメだった。  もう、見ていられなかった。  せっかくの晴れ舞台、きちんと見届けてあげなくてはと思うのに。涙が溢れて、溢れて、止まらない。  その時だった。秋生の右から、左から、どよめきが起こったのは。
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