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 踏み締めたのは体育館シューズの足音。キュッキュッとランウェイには似合わぬゴムの音。どよめきはすぐに笑い声に変わり、シャッターの音が激しくなった。  何事かと、涙を拭って顔を上げれば。  そこにいたのはマーメイド。  それも、ゴツくてむさ苦しい水色のマーメイドだ。  秋生は大きく声を上げた。  登戸茂樹――たいして仲が良いわけでもない秋生のクラスメイト。それが、秋生の作ったマーメイドドレスを着て、ランウェイをガニ股で歩いている。背中のチャックは全開だったし、肩は破けたのか安全ピンで留めていたけれど。それでも、誰よりも堂々とランウェイを歩いている。  センターで立ち止まり。  不格好に体を右に、左に。踵を返す時に裾を踏んだ。ビリッという嫌な音が、最前列には聞こえたかもしれない。  秋生はその背を追い掛けた。観客を掻き分け、舞台袖へと走る。 「登戸くん――……っ!」  
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