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 舞台の下手側で、茂樹は被服部の女子部員たちに囲まれていた。暑さか羞恥か、赤い顔をしていたが、秋生を見ると真っ蒼に顔色を変える。彼はドレスの裾を摘まみ上げ、慌てた様子で秋生に駆け寄る。 「ごめん、川端! ドレスあちこち破けちゃった」  あちこちなんてものではない。色々なところがぱっくりと割れ、下着の黒が見えている。  秋生はパクパクと口を開けたり閉めたりするものの、咄嗟に言葉が出てこなかった。その様子を見て、茂樹は一層蒼褪める。 「ごごご、ごめん! ホントに、あの、後でなんでも奢るから――」 「二人とも、急いで! 最後の挨拶!」  部長らしき女子生徒が間に割って入り、二人を舞台上に押し出した。スポットライトが並んだ部員とモデルたちを照らし出す。  なんて眩しいのだろう。  秋生は茂樹の隣で目を細めた。客席は黒い海のようで、観客個々の顔なんて見分けられない。その海の中を、カメラのフラッシュが瞬いている。 「これにて被服部のファッションショーを終わります。ありがとうございました」  部長の挨拶に合わせて、頭を下げる。  万雷の拍手がいつまでも耳にこびり付いていた。
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