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何度かビリリと不吉な音を立て、やっとこさドレスから制服へと着替えた茂樹は、部室から出る前に大きく息を吸い込んだ。
まさかここまで衣装を破壊してしまうとは思ってもいなかったし、考えれば考えるほど、自分でもなんでこんなことをしたのかわからない。ただ、丹精込めた作品を眠らせるのはもったいないと、秋生にも晴れ舞台を味わわせてやりたいと思っただけなのだが。
意を決して廊下へ出る。やはり、秋生は扉の前で待っていた。
「登戸くん……」
どうして、と問われると思っていた。
なんてことを、と罵られる覚悟もしていた。
けれど、秋生が口にしたのは、もっと違う言葉だった。
「――ありがとう」
そう言うなり、泣き出してしまう秋生。茂樹は激しく狼狽えた。
「うわー!本当にごめんなさい!」
「ちがっ……ありが、えぅっ……」
「ううう。ごめんて……お詫びになんでもするからさぁ……」
そんなに言うのなら、と秋生はひとつ要求をした。それは茂樹には極めて不可解な要求だった。
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