2.

5/7
前へ
/16ページ
次へ
 茂樹の隣の席でも、その話題は繰り返される。 「可哀想に。花純、災難だったね」 「ホント無事でよかったよ」  取り巻きの女子が口々に言う。花純は豊満な胸を強調するように腕組みをし、あたかも悲劇のヒロインを演じている。 「信じらんない。まさかそんな男だったなんて」 「あんなオカマ野郎のことなんて早く忘れなぁー?」  でもさ、と一人が思い出したように問う。 「花純、あいつのファッションショーのモデル引き受けるって言ってなかったっけ? それはどうすんの?」 「やるわけないでしょ!」  花純は自分の体で示して見せる。 「だって、こーんなに肩からがっつり胸空いてんだよ? 乳出るっつーの」 「うそ! マジキモい!」 「本当サイテーじゃん。断れてよかったねー」  などと。女子たちはギャアギャアと聞こえよがし喚き立てる。  茂樹は思わず秋生の方を盗み見た。これだけうるさいのだ、彼の耳にも入っているだろう。それでも身動ぎひとつしない秋生に、茂樹の中で何かがムクムク湧き上がっていった。  違う、と思った。  二人に何があったかは知らないが、ドレスのことだけは違うと確信できる。  確かに肩を露出したデザインだったけれど、あれは。あのドレスは。あの秋生の眼差しは、そんなくだらない欲望を差し込む余地なんてないほどに――……。  突然、秋生が席を立った。逃げるように教室から走り出る。花純の取り巻きが追い立てる声を聞きながら、気が付けば茂樹は後を追っていた。  
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加