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茂樹の隣の席でも、その話題は繰り返される。
「可哀想に。花純、災難だったね」
「ホント無事でよかったよ」
取り巻きの女子が口々に言う。花純は豊満な胸を強調するように腕組みをし、あたかも悲劇のヒロインを演じている。
「信じらんない。まさかそんな男だったなんて」
「あんなオカマ野郎のことなんて早く忘れなぁー?」
でもさ、と一人が思い出したように問う。
「花純、あいつのファッションショーのモデル引き受けるって言ってなかったっけ? それはどうすんの?」
「やるわけないでしょ!」
花純は自分の体で示して見せる。
「だって、こーんなに肩からがっつり胸空いてんだよ? 乳出るっつーの」
「うそ! マジキモい!」
「本当サイテーじゃん。断れてよかったねー」
などと。女子たちはギャアギャアと聞こえよがし喚き立てる。
茂樹は思わず秋生の方を盗み見た。これだけうるさいのだ、彼の耳にも入っているだろう。それでも身動ぎひとつしない秋生に、茂樹の中で何かがムクムク湧き上がっていった。
違う、と思った。
二人に何があったかは知らないが、ドレスのことだけは違うと確信できる。
確かに肩を露出したデザインだったけれど、あれは。あのドレスは。あの秋生の眼差しは、そんなくだらない欲望を差し込む余地なんてないほどに――……。
突然、秋生が席を立った。逃げるように教室から走り出る。花純の取り巻きが追い立てる声を聞きながら、気が付けば茂樹は後を追っていた。
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