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見失っても、居場所の見当は付いていた。
案の定、そこは被服室。
秋生は自作のドレスの前で泣いていた。
「川端」
呼び掛ける。丸めた背中がビクリと縮んだ。
「川端、あのさ――」
「ごめん。ひとりにしておいて」
「――俺、ファッションショー見に行くわ」
秋生が顔を上げる。振り向くことはなかったけれど。
「……ありがと。みんなの晴れ舞台、見てあげてね」
「お前は?」
「オレのは……出ないよ。ここに飾っとく」
「なんで? お前のもショー出すんじゃないの?」
「うん。モデルが、いないから」
高貴な佇まいを見せるマーメイドのドレス。
文化祭準備の喧騒が、まるで海中のようにくぐもって聞こえていた。
「……それ、聞いた。澤村に断られたんだっけか」
「うん」
「他のやつ探せばいいじゃん。誰かいないの?」
「ちょっとね、見つからなくて」
秋生は何も言わなかったが、茂樹には事情を察することができた。おそらく多くの女子に花純が圧力を掛けているだろうし、そうでなくともあんな噂が広まっている中で、モデルを引き受けようと思う者はいないのだ。
きっと――茂樹は思う――秋生はこのファッションショーに青春を捧げていた。多くの部活がそうであるように。それがこんなことで潰えるなんて。同情と同時に疑問が浮かぶ。
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