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1.
登戸茂樹は度々迷惑を被っている。隣の席が臭いのだ。
週に二、三回。澤村花純の席はネイルサロンになる。
花純は髪を明るい茶色に染めて、制服のスカートを限界まで短くした、所謂ギャルという種族だった。弁当に二合分の握り飯を持参する茂樹とは、根本的に生きる世界が違う存在。茂樹も異文化には敬意を表したいと思うけれど、人が飯を食っている横であの刺激臭を撒き散らされるのは我慢がならない。
とはいえ。
誰も彼女に口は出せない。皆、花純の背後にいる真部徹を恐れているのだ。この美男美女カップルは成績こそ最底辺に属するものの、スクールカーストでは最上位に君臨する絶対王者であった。結局、茂樹も徹が怖くて、文句のひとつも言えずにいるのだった。
さて、そんなネイルサロンだが、経営しているのは川端秋生という男子生徒である。なぜ男子がネイルなんて、とクラス替え当初は驚いたが、観察しているうちに納得した。彼は心に乙女を宿している系男子なのである。
「花純ちゃんリクエストの夏の新色、くすみターコイズ。完成でーす!」
「ありがとー! やっば、めちゃかわじゃん」
花純が五本指を陽光に透かす。その満足そうな笑みにふにゃりと笑って応える秋生は、七月の日差しを受けて、心底幸せそうに輝いて見えた。
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