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彼女は次の日もやってきた。何時もの様に、暗闇を切り取ったような服装で。
「昨日が赤でその前が黄色だったから、今日は青か白系が良いんじゃないでしょうか」
欲しい花の種類を告げられるより前に、私は先回りして言った。
「そうですか?」
「ずっと家に残る物なら統一感があっても良いけれど、花は消耗品ですから。違いがあった方が楽しくないですか?」
「そういう物ですかね」
彼女は肯定も否定もせず、店の奥、あまり売れ筋でない花が並ぶ一画を物色し始めた。いつものように花を見繕う彼女を横目に、私は今までの彼女の発言を思い出していた。
約束の一週間も、もう半分を過ぎた。彼女の発言は何処までが真実なのだろう。彼女の思い人は、本当はどんな人なのだろう。
「答え合わせ、したいですか」
オダマキの花弁を指でなぞりながら、彼女はこちらに顔を向けず言った。彼女の発言があまりに唐突だったので、私は一瞬、それが独り言なのかと錯覚した。まるで心を読まれたようで、私は慌てて俯く。それほど長く考え込んでいたつもりではないのに、いつの間に選び終わったのだろう。
「今日いきなりは無理ですけど、明日以降なら会わせられますよ、あの人に貴方を」
「でも、明日は私は休みで、店に来ないので……」
しどろもどろになりながらも、彼女の選んだ花を取り出し、鋏を入れる。白に少し青紫が混じった花弁は私の薦めに忠実であり、何だか場違いに可笑しかった。笑いでなのか恐怖でなのか、手が震えて狙いが定まらない。
いつもの二倍近い時間をかけて、ようやく花を渡せる状態にした。彼女は私の異変に気付いているのかいないのか、平然と花を受け取った。
「では明日のうちに考えておいてください」
代金は丁度の金額をトレイに置かれて、私は内心ほっとした。硬貨を手渡されていたら、きっと取り落としていただろう。
「でも、でも……お邪魔じゃないですか」
「あの人も、毎日綺麗な花を売ってくれる貴方に会ってみたいと言っていましたから」
私はその言葉も嘘ですか、と言おうとして止めた。私はまだ、彼女の嘘の質感を上手く掴み切れていない。
「では、どちらにせよ明後日また会いましょう」
闇の中へと消えようとする彼女の背に、私は思わず声をかけた。
「明日贈る花はどうするんですか」
彼女は振り向かず、何でもないように言った。
「あてはいくらでもありますよ」
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