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二日後、彼女はまたやってきた。何時もの様に、暗闇を切り取ったような服装で。
「すみません、今日も花の種類を決めていないので……」
私は彼女に、切っておいた菖蒲を一本、バケツから取り出した。ちゃんと時間を見計らって切ったので、まだ萎れたりはしていないはずだ。
「これは」
「この花は私が奢ります」
声の震えを悟られてはいないだろうか。彼女が私の様子をどう思ったのかは、いつもながら読めない。
「良いのですか?」
「その代わり、やっぱり知りたいです。この目で答えを」
「そうですか、ならお連れしましょう」
対価なんて要りませんでしたのに、と彼女は小さく笑った。
「でも、その前に」
「何ですか?」
「貴方は何と答えますか?」
「私の答えは」
私は菖蒲を彼女に向けて突き出す。私と彼女の間に、鮮やかな紫の花弁が揺れた。
「『あの日からの一週間、嘘を交えて話す』という事が嘘、だと思います」
「それが貴方の答えですか」
彼女は舞台俳優のように笑って、私の手から花を受け取る。花を掴んだ指先同士の距離は、ほんの数ミリだっただろう。私は手と手が触れ合う寸前に、慌てて引っ込めた。
「良いでしょう。あの人のところまで案内します」
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