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北へ
その日、私とルシヤは、日が暮れるまで馬を駆った。
到着したのは、山の麓の村だった。暖かそうなオレンジ色の明かりが窓の隙間からもれている。
『子供だけで泊まれる気がしないんだけど』
ルシヤが指文字を打った。
『じゃあ、肩車!』
私は小柄なルシヤを肩車した。ルシヤは、一番裾丈が長いコートを羽織った。帽子を深々とかぶる。路地に入り、木組みの宿屋に入った。
「すまないが、今夜一晩、泊めてくれるかい?後から連れと子供が二人くるから、部屋に夕食を運んでくれ。宿賃は200イグネルでいいか?」
私は思いっきり低い声を出した。
「ええ、どうぞ」
部屋に通され、ドアがしめられると、ルシヤと私は喜んで飛び上がった。しかし、こんなに大はしゃぎしていてはいけないことも分かっていた。ここからは山なので、馬が使えない。歩くしかないのだ。雪に強いカホラ(牛っぽい)もいるが、貸してもらうにはかなり高額な借り賃を支払わなけばならない。
その時、
「コンコン…お夕食です。」
ドアをノックして、カウンターで聞いた女の人の声がした。冷汗が垂れた。大人がいないと知れたら、怪しまれる!
「はあい」
私は、できるだけかわいいコドモのふりをして、ドアを開けた。
「あら?あぁ、お連れさんね。パパはどこへ行ったの?」
「ママは奥で片付け、パパは煙草を吸いに外。」
「そうなのね。」
「受け取ります。」
荷物が二人分しかなかったら、怪しまれる。受け取って、小さな部屋のなかの大部分を占めるテーブルに置いた。窓から入ってくる風は、閉めても入ってきた。
「もう寝よう。」
私たちが布団を敷いて寝た後、窓の隙間から、覗く者がいた。
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