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「ご、ごめんっ。泣いたって、しょうがないよね。いまさらどうなることでもないし」
「……大丈夫ですよ、はい」
永井くんは、テーブルの下からティッシュを取り出すと私の前にそっと置いた。ありがたくそれで涙をぬぐい、鼻水を拭く。
「まだ、風見さんのこと好きなんですか」
「……えっと、あの……」
私は目頭を押さえながら、小さく頷く。
「だい、ぶ、気持ちに、整理、つけたつもりだっ、たんだけど」
「……」
「ごめんっ、ね、いきなり泣かれたら、困る、よね」
好きか好きじゃないかと聞かれれば、まだ好きなのだと思う。それでも付き合っていた時のような、慈しみや愛情は少しずつ薄れてきている。
忘れようと思っても伊吹とは同じ部署。連携は取らなければならないし、いやでも顔は合わせる。
あははと乾いた笑いを繰り出しても、涙が止まらない。しばらく沈黙が続いて、少し落ち着いてきた頃、永井くんが口を開いた。
「大丈夫ですか」
「うん。ごめんね、話進めよう?」
「……復讐のゴールは美濃さんを退職させるってことでいいんですよね?」
「……う、うん」
「一番いいのは放っておくことだと思うんですけど」
「あー、うん。やっぱりそう思う?」
そんなやつに構う必要なんてない。それもわかる。でも、このままじゃ許せない。そんなドス黒い気持ちが心のまわりにまとわりついているのも確かだ。
「人を貶めるなんて、したことあるんですか?」
「いや……ない」
あれこれ復讐に躍起になって、相手を貶めようとするのは自分の性に合わない。それは自覚があった。
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