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私は顔を上げると、彼の瞳をすっと見つめた。
「復縁はしない」
「他の人、探すんですか?」
「そう……だね。うん、すぐは難しいかもしれないんだけど……。いつかは」
「へー」
相変わらず、淡々とした彼の口調。私の気持ちがどうだとかあんまり興味がないのだろう。
「わかりました。復讐計画は三幕構成です」
「さ、三幕?」
「はい。まず一幕は『失恋したけど健気に仕事頑張る女』です」
「はぁ?」
間の抜けたネーミングに首を傾げた。なにそれ?
「藤原さんと、風見さんが付き合っていたことは、社内ではよく知られてますよね」
「そ、そうなの?」
「だと思いますよ。少なくとも営業部は知ってます」
「あー……」
社内恋愛はもちろん禁止ではないし、付き合っているひともチラホラいる。
永井くんのいる営業部と、私の所属する商品企画部はフロアが同じで、お互いの動きはなんとなく見える。
なんかますますやりにくいな。そんな気がしてきた。
「とりあえず、俺が藤原さんと風見さんが別れたらしいってことをそれとなく広めてみますね」
「あ、え……?」
「藤原さんも、誰かに聞かれたら別れたと伝えてください」
「はぁ……」
「あとは、いつも通りで」
いつも通り? まあそれはそうなんだろうけど……。
「いつも通りでいいですし、なんならもっと仕事がんばってください」
「は?」
「残業するとか、朝早く行くとか」
「えっ? な、なんで?」
「言ったでしょ? 失恋したけど健気に仕事頑張る女です」
まったくわからん。いや、失恋したどうこう関係なく、仕事はがんばるものなのでは?
「僕から言うのもあれなんですけど」
「うん」
「藤原さんは、普通に仕事がんばってます」
「はぁ……」
唐突に褒められて、ぽかんとする。
「みんなも藤原さんを頼りにしてるし、仕事も丁寧です」
「……あ、ありがと」
「そのままで大丈夫です。何も心配しないでいつも通り仕事してください。ほんの少し、失恋した悲しみを雰囲気にのせるだけでいいと思います」
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