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「ここ以外にしよ」
「ふーん……」
不服そうな顔を永井くんがする。まあいいやと小さくつぶやくと、私に背を向けて、リフレッシュルームの出入り口の方へスタスタと歩いていった。
「とりあえず仕事終わらせましょう。そしたらうちに来てください」
話の続きはそこでしましょうと、ドアを半分開けながら、こちらを振り返った永井くんは、ほんの少し笑みを浮かべていた。
「うちって……」
「俺のマンションです。それとも、倉庫でもいきます?」
頬がぼんっと熱くなる。よくもまあつらつらと刺激的な言葉が出てくるなと不覚にも感心した。
「倉庫も……いや」
「この前風見さんとはキスしてたのに?」
「なっ……!!!」
誰にも気づかれていないと思った。ほんの少し、唇が触れただけの優しいキス。
あれが最後のキスになるとは、思ってもみなかった。
「みっ、見てたの?」
「別に。ふたりで倉庫から出てきたのを見たので。だからなんとなく」
風見伊吹は、ひと月前までは私の彼氏だった。
今は、元同級生で同僚の美濃燎子の彼氏におさまっている。
乗り換えられた。そう気がついたのは今日の昼間。
リフレッシュルームで伊吹と燎子がキスしているのを見てしまった。
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