1.夜のサブスク契約

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 背を向けていた伊吹は、私に気がついていなかっただろう。  伊吹の肩越しに、燎子の顔が見えた。  キスしながら、少し目を開けて私を確認すると、わざとらしく目を閉じて、彼の首に腕を回してキスを深めていた。  あまりのことにカチッと固まった。  いやらしいリップ音が、頭の中に今でも響いてくる。  やっと足が動いて、その場から逃げるように離れるまで時間がかかった。  急に別れたいと言ってきたのはそういうことだったのか。  なぜそうなったか合点がいった。  あの子に二度も彼氏を取られることになるなんて。  思い出したら悲しくなってきて、目の前が霞む。スタスタと永井くんが戻ってきて、涙をそっと拭った。 「大丈夫ですよ、俺にまかせて」 「永、井……くん」  そっと微笑む彼の顔は眉目秀麗という言葉がぴったりだ。 「ありがと……」 「あとどれくらい仕事あります?」 「……もう、やる気ない。あとは明日にする」 「じゃあ、ロビーで待ってますね」  彼はそう告げると、リフレッシュルームを出て行った。  ポロポロと流れる涙を拭いながら、私もロッカールームへ移動し、コートを着る。    つい数ヶ月前に元彼に買ってもらったコート。できればもう着たくなかったが、年末の激務で買い換える時間もなかった。袖を仕方なく通せば、悲しくて切なくて肩が小刻みに震える。  どうしてこうなったんだろう。
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