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そう考えても仕方ない。
息を吐きながらスマホを取り出すと、メッセージアプリを開く。
誰からもメッセージはきていない。
伊吹に送った、もう一度話がしたいというメッセージは未読のままだ。
重だるい悲しみがずとんと肩にのしかかる。
ロッカーの小さな鏡にうつる自分の顔は、なんとも情けない。
私は息をついてリップを塗り直すと、ロッカールームを出て、ロビーに向かった。
「おまたせ」
スマホを目を落として立っていた永井くんに声をかける。
「いえ。じゃあいきますか」
「家はどこ?」
「こっからすぐです。歩いて5分もかかりません」
「へぇっ!? この辺に住んでるの?」
会社は名古屋駅から徒歩圏内。その近くとなると高層マンションがほとんどだ。いったいどれだけ稼いでるんだろう。
「別に、大したことないです」
「いや、す、すごいよ」
永井くんは入社5年目で、私のひとつ後輩。
入社後すぐ、めきめきと実力をつけた有望株。海外案件もよく担当している。
来年には、アメリカ転勤も取り沙汰されている。
帰国すれば昇進コースまっしぐら。会社になくてはならない人。
ビルの外に出ると、木枯らしが吹いて思わず「さっぶ!!」と2人の声が重なる。
「ほら」
永井くんが、さも当たり前のように私の右手を取って、彼のコートのポケットにすぽんと収めた。
あまりのスマートさに驚いていると、そのままマンションが立ち並ぶ方へと歩いていく。
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