1.夜のサブスク契約

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「待って、誰かに見られたら……」 「見られて、困ることあります?」 「え、あ、いや……」  美しい横顔を見ていたら、何も言えなくなった。  冷たかった手が、永井くんのポケットのなかで少しずつ温まっていく。 「ほら、すぐそこです」  永井くんの指差す方には、いくつか高層マンションが立ち並ぶ。 「す、すごっ……」 「今の自分より、ちょっと背伸びするのがステップアップの肝らしいですよ」 「はぁ……」  だとしてもすごい。  一番手前のタワーマンションに彼は向かった。煌びやかなエントランス、開放的なロビー。24時間常駐であろうコンシェルジュの横を通り過ぎる。  重厚な色のエレベーターにルームキーをかざした永井くんに連れられて乗り込む。  永井くんは無言だった。  私が顔を覗きこんでも、チラッと目を合わせるとすぐ前を向く。  勢いでここまできてしまったけれど、本当にいいのだろうか。  繋いだままの手を、永井くんが握り直してくる。ポケットの中で恋人繋ぎになった手が、焼けるように熱い。  そっと顔を上げても、彼は前を向いたまま。  エレベーターは11階で止まった。  静かな内廊下に、ふたりの足音だけが響く。  永井くんは部屋の前まで来て足を止めた。ルームキーをセンサーにかざそうとして、すっとその手を下ろす。  どうしたんだろう。  彼を見上げると、なんだか苦しそうな顔。
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