【偽りの愛の言葉】

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「……棗さん?どうかしましたか?」  棗さんは、バルコニーに出たまま立ち尽くしていた。 「……いや、何でもない。風邪を引いたら大変だ。中に入ろう」 「……はい」  中に入ると、着替えるからと棗さんはスーツを脱ぎ出した。そしてネクタイを緩めると、わたしを真っ直ぐに見つめた。 「……な、棗さん?どうしましたか?」 「聖良」 「はい。……んんっ」  名前を呼ぼれたかと思いきや、棗さんはわたしに近づいてきて、強引に唇を奪ってきた。それは段々と深いキスになってきて……。 「……んっ、な、棗さん?」  そしてわたしの頬を撫でるように触れると、もう一度唇を重ねてきた。 「……聖良、お前は可愛いな」 「え?」    か、可愛い?可愛いって……?  なんでそんなこと、言うの……。偽りの結婚生活に、可愛いなんて言葉は要らない……。 「……いや、何でもない」  棗さんが離れたと同時に、ルームサービスが到着したようだった。
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