【偽りの愛の言葉】

11/12
前へ
/125ページ
次へ
 どこか複雑だった。そう言われて嬉しいはずなのに。心のどこかがチクリと針が刺さったように痛いのはきっと……。  わたしたちが偽りの夫婦だからだ。ちゃんと分かりたいたい。そう思うこともあるけど。  結局わたしたちは、愛のない偽りの結婚をした偽物の夫婦だってことだ。……その事実はどこからどう見ても変えられない。  バカだなと思うけど。どうやってもその気持ちは消せない。消すことができない。 「……聖良。無理にじゃなくていい。俺のことをまだ嫌いでも構わない。だけどそんな顔するな」 「え……?」 「俺はお前に、そんなに悲しい顔をさせたい訳じゃないんだ。……ただ素直に、笑っていてほしいだけなんだ」 「笑っていてほしい……?」  そういえばわたし、棗さんと結婚してから笑った記憶がない。いつから笑ってないんだろう……。  それが棗さんの願い、希望だと聞いて。だけどそれを聞いて、なんだか少しホッとした自分もいて……。
/125ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加