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だけど頭の片隅に浮かぶのは、それが私に向けた本当の言葉だとしても。
それは結局、偽物の愛の言葉だということだ。
わたしが棗さんの本当の愛にしがみつくなんて、おこがましいくらいだ。
だけどウソで重ねたその偽りの言葉を信じみたいと思うのも、また事実で……。
考えたら色々と分からなくなってしまった。
「そうだ。きみが必ず、幸せだと思う結婚生活にしてみせると約束しよう。……だから、俺のそばにいると約束しろ」
「……分かりました」
そんなことを言うなんて、棗さんらしくない。
だけどそうやって愛の言葉を言われたら、本当は嬉しくなって微笑みが出るんだろうな、って思うけど……。
「よし、食べたら風呂に入ろう」
「はい」
この結婚が偽りだとしても。愛のない結婚だとしても。それでもわたしは、彼の妻だ。
わたしの名前は鷺ノ宮聖良。彼の妻になった女だ。
彼のことを愛している訳じゃない。だけどわたしは彼の妻として、彼を支えていかないといけないと、改めて自覚した。
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