【偽り夫婦の距離】

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「……そういえば、言ってませんでしたね」  ネコが好きなことを特に言ってなかったことにこの時初めて気付いた。 「俺はまた一つ、聖良のことを知れてよかったけどね」 「……そうですか?」 「ああ」  棗さんがそんなことを言うなんて、どうかしている。偽りの妻にそんなことを言う必要があるのかと思うけど……。  それもまた、棗さんの優しさなのかもしれない。 「……聖良」 「はい?」 「もっとこっちに来い」 「……はい」  スマホに充電器に差して、言われた通り棗さんに近寄った。すると棗さんは、わたしをベッドに押し倒して優しめのキスをしてきた。 「……聖良」  わたしの名前を呼ぶその力強くも優しいその声。そしてわたしの髪を撫でながら、わたしの頬を撫でてくる。 「棗、さん……」  そっと棗さんの名前を呼ぶと、棗さんはわたしの首筋に唇を這わせて来る。……わたしを抱くんだなって、もう感覚で分かる。
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