【偽り夫婦の距離】

4/13
前へ
/125ページ
次へ
 勘違いかもしれない。本当に、聞き間違いかもしれない。  だけどわたしには、好きだという一言が聞こえた気がした。  ……信じられない。信じたくもない。    けれど……その言葉だってきっとウソかもしれない。夫婦の営みの最中だからこそ、雰囲気を出すためにそう言っただけかもしれない。 「……んんっ、棗さっ……」  棗さんの手を握る力が強くなって、わたしも棗さんの指を絡めて握りしめた。  その瞬間に、わたしたちは二人で理性を手放した。 「……聖良、おやすみ」 「おやすみなさい。棗さん」  わたしは棗さんの腕に抱かれながら、その日の夜眠りについた。 ✱ ✱ ✱  翌朝、目が覚めると。棗さんはすでに仕事で出かけていていなかった。リビングに行くと、リビングに置き手紙が置いてあった。  【起こすと悪いと思ったから、先に仕事に行く。今日は定時で帰る。外で夕食でも食べよう】  え?外で夕食を……?外食なんて、久しぶりだな……。
/125ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加