【偽り夫婦の距離】

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 少し気まずい雰囲気の中、わたしたちは棗さんが予約してくれたレストランへと向かった。  車は運転手さんが運転してくれている。  しばらくの間、車の中では無言が続いた。ちらりと棗さんの顔を見ると、棗さんは社内の窓ガラス越しに横を向いていた。  ……横顔、カッコいいな。  確かによく見ると、棗さんはカッコいい。イケメンの枠に入ると思う。  棗さんがわたしの夫だなんて、まだ信じられない時がある。こうやって隣に並んで歩くだけで、わたしは恐れ多いくらいだ。 不釣り合いなのをわかっていて、隣を歩きたいとはどうしても思えない。 「……聖良、どうした?」 「あ、いえ……なんでもないです」 「そうか。もう少しで店に着く」 「はい」  車が信号待ちをしている間、棗さんはわたしの右手をギュッと握っていた。  わたしはそれを振り払うことも出来ずにいた。  握られたわたしの手は、ほんのりと温かくて。優しい温もりがあった。  ……棗さんの手は温かい。この温もりは、すごく好き。
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