【偽り夫婦の距離】

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「聖良?」 「あ、すみません……。では、失礼します」  椅子に座ると、棗さんは椅子を戻してくれて。荷物も隣の椅子に置いてくれた。 「……ありがとうございます。棗さん」 「気にするな。お酒は飲めるか?」 「あ、はい」 「じゃあシャンパンで乾杯しよう。シャンパンを持ってきてくれ」 「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」  ウェイターさんが出ていった後、棗さんはお絞りで手を拭くと、わたしに話しかけてきた。 「この店も、鷺ノ宮グループの傘下に入ってるんだ。だから今日はこうして、君と食事をしたくてVIPルームを貸し切った」 「そ、そうなんですね……」  こんなVIPルームを貸し切ったなんて、わたしはただの一般人だから全然VIPじゃないのに。  わたしは妻という立場なだけ。それ以外は何もない。あるのは、鷺ノ宮家の御曹司の妻という肩書きだけ。  「こうして二人きりにしたのも、君と距離を縮めたくてなんだけど」
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