【鷺ノ宮夫婦の初めてのデート】

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「うわ、結構高いな?」 「そうですね。結構高いですね?」  観覧車の中から遊園地全体を見渡す。 「高い所は平気か?」  棗さんが突然そう話しかけてきた。 「え?高い所ですか?……はい。大丈夫ですよ。棗さんは?」 「俺は……。その、苦手だな」 「そうなんですね?意外です」  棗さん、高い所も苦手なんだ? さっきから意外だ。  これは……もしやギャップというものなのかな? 「え?意外か?」 「はい。意外です」 「……そうか。意外だったか」 「はい。……わたしは棗さんのこと、何も知らなかったので。そういったことも知れて、よかったです」 「そうか。俺もよかったと思ってる」 「え?」 「俺も今まで、お前のことを何も知らないままこうして一緒にいたんだ。……妻のことを少しでも知れたら、それで充分だよ」  棗さんのその気持ちが嬉しいと、わたしは今思った。  棗さんのことを少しでも知れたら、少しは距離が近づくのだろうか……。  そんなことを、観覧車が回る15分の中でわたし思っていた。
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