何度も、何度も

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何度も、何度も

夢を見た。 僕はどこか分からない、屋外にある駐車場にいた。 そこで、僕は、ある車の前で彼女を待っている。赤い車。ナンバープレートには外国のナンバーが書かれている。僕はその車を彼女の車だと思い込んでいた。しかし、いつまで待っても彼女は、やって来ない。そこで、いつも夢は終わる。目を覚ますと、夢のことは忘れてしまった。 同じ夢を何度も見た。目を覚ますと、夢で見たことは忘れる。それを繰り返した。 ある時、また、同じ夢を見た。しかし、いつもと違った。僕はいつもの赤い車の前で、彼女を待っている。いつまで待っても彼女は来ない。痺れを切らした僕は、何で来ないんだよ、と思いながら車のバンパーを軽く蹴る。何度も、何度も。 振り返ると、後ろに白い車が停まっていた。車の中を見ると運転席に彼女が座っていた。僕は、はっとして息を飲む。彼女は運転席から降りると、僕に向かって歩いてきた。彼女の髪は、肩より長くソバージュがかかっていた。小さな顔と透けるような白い肌。昔と全然変わらない。 彼女は少し離れたところで歩みを止めると、悲しそうな顔で僕を見つめた。その瞳から涙がこぼれ、頬を伝った。しばらく彼女は何も言わず、涙を流し続けた。そして、おもむろに頭を一つ下げると、振り返って運転席に戻って行った。 白い車が走り出す。僕の前を通る時、車内の様子が見えた。助手席のチャイルドシートには、生まれて数ヶ月になる赤ちゃんが乗せられていた。後部座席には、幼い女の子が彼女の母親と思われるお婆さんと一緒に座っていた。彼女と同じく、色白の女の子だった。 僕は、そこで、ああ、これは夢だ、と気付いた。そして、今まで何度も、何度も、同じ夢を見ていたことを思い出した。 僕は、しばらく布団の中で夢の余韻に浸った。それから、目を開けると、ゆっくりと布団の上に上半身を起こした。 「瑞希」 彼女の名前が口をついて出る。久し振りに発した彼女の名前。今まで何度も、何度も、口にした名前。 何でだろう。何で今頃、こんな夢を見るんだろう。 忘れていた彼女への想いが、胸に込み上げて切なくなる。 彼女のこと、あんなに好きだったのに。 別れてからも、ずっと、ずっと彼女のことを想い続けていたのに。 どうして忘れていたんだろう。 結婚して、子どもが生まれて、いつしか忙しさの中で、彼女のことは、僕の中から遠のいていってしまった。 それは、ごく自然なことだったのだろう。 だけど、僕は彼女のことをずっと想い続けていたかった… 窓の外から小鳥のさえずりが聞こえる。 カーテンの隙間から淡い朝の光が漏れる。 もうすぐ朝だ。 僕は、布団から起き上がると、カーテンを開けた。 外は、まだ薄暗く、遠くの空が僅かに白んでいるだけだった。 僕は、次第に明るさを増していく空を見つめながら、彼女の幸せを祈った。 何度も、何度も。 おしまい
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