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 今日から高二。つるんでたヤツらとは離れ、俺だけ一人別クラスになった。  知らない顔ぶればかりの教室に、少しの不安と少しの期待で足を踏み入れる。 『あー……だる。またコイツと同じクラスかよ……』  ニコニコ笑顔で友達と会話をしながら悪態をつくヤツ。 『どうしよう……一人ぼっちになっちゃう……早く友達作らなきゃ……』  見るからにオロオロして不安そうな子。  さて、誰と友達になろうかなと教室内を物色した。  表の声と心がなるべく同じ人を、俺はいつものように探す。  それはもう癖みたいなものだった。  友達として付き合っていけば、なにかしら聞きたくない心も聞こえてくる。  それでも、初めが肝心だ。少しでも誠実なヤツと友達になりたい。  できれば、あまり心がうるさくないヤツがいい。  心の声は思いの強さで音量が変わる。  いつでも熱いガツガツしたヤツは、心の声も常にうるさい。そいうのはしんどいから遠慮したい。  座席表を見て、とりあえず自分の席に座った。  みんなの表の声と心の一致具合を確認しながら見渡していると、心が聞こえてこない男がいた。  聞こえないってすげぇな、と思って興味がわく。  思いが弱いものは、かすかにしか聞こえない。  あれが食べたい、あー眠い、そういうくだらないものは、かすかにしか聞こえない。だから聞きたいときはあえて心を読む、見る、そんな感じだ。  でも全く聞こえてこないってめずらしい。  本を読んでいるからだろうか。  大抵本を読んでる人は内容が聞こえてくる。想像力豊かな人は物語が映像で見えてくることもある。  静かに本を読んでいるその男は、正直に言って本が全く似合わない。ちょっと厳つい感じで座っていても背が高いとわかる。短髪の黒髪は見るからに硬そうだ。  全体的に……そう、まるでヤンキーが面接前に黒髪に染めました、みたいな容姿の男だった。でも制服は気崩してないから、なんだかちぐはぐな感じがする。  俺は背が低いのがコンプレックスで猫っ毛の茶髪。くせ毛でふわふわしている。心が聞こえないことに加えて自分とは正反対なこの男が、なんだか気になる。  俺は席を立って男に近づいた。前の席に後ろ向き座って向き合うと、笑顔で話しかける。 「なあ、もしかして友達みんなと離れちゃったクチ? 俺もなんだよね」  本を読んでいた男は顔を上げて俺を見た。  おお、眼力すごいな、イケメンじゃん。眉間のシワがちょっと気になるけど、第一印象完璧だ。 「友達はいない。いらない」 『なんだコイツ、ウザイな』  速攻でシャットアウトされた。  友達いらないって。逆にどんなヤツだよ? と俄然興味がわく。 「マジかー。友達いらねぇの? えー友達になろうよ。俺、野間っつーんだ。あんたは?」 「しつこい。友達はいらない」 『なんだコイツは……。なんで食い下がってくるんだ。寄らないでくれ……頼むから……』    男はまた顔を下げ、本に視線を戻した。  あれ、なんか一匹狼的な感じかと思ったらちょっと違うっぽい。  寄らないでくれ頼むからって、なんかちょっと寂しそうな響きだった。そんな風に言われちゃうと寄りたくなっちゃうよね。  いやでも、これだけ近づいても心がかすかにしか聞こえないなんて、本当にめずらしい。  そんなことを思っていたら、男が突然顔を上げて目を見開いた。 「ん? え、どした?」 「お前いま……」 「ん?」  なになに、どうした?  俺なんか変なこと言ったっけ?   『いや……まさか……気のせいだ、聞き間違いだ……』  男の心がざわついていた。  ん? なにを聞き間違えた?  急にどうしたんだ?  俺を見る男の顔が、どんどん青くなっていく。 「なあ、顔真っ青だけど……大丈夫か? 保健室行く?」  さすがに心配になって立ち上がり、「大丈夫か?」と肩に手をふれると、まるでさわるなと言わんばかりに振り払われた。 「な、なんだよ。ただ心配しただけじゃんか」  と文句を言ったとき、チャイムと同時に担任が教室に入ってきた。 「……なあ、ほんと保健室行ったほうがよくね?」 『なんだコイツ、なんで……うそだろ……』  男はなにも答えず、青い顔で穴が飽きそうなほど俺を見てくる。 「おいそこ、早く席に着け」 「あ、はい、すんません」  俺が離れて自分の席に着いても、男は俺から目を離さない。  心を読んでも、なんで、うそだろ、そればかりだ。  わけがわからなかった。  ただ、俺を見るあの目は、昔見たことがある。  俺がまだ心の声に普通に返事をしていた頃の、俺を見る両親の目。友達の目。  あれと同じだ……。なぜ……?  
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