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『野間が……聞かれるのが嫌なんじゃないかと思っただけだ。俺は、嫌じゃない。というか……』 『というか?』 『……いや、なんでもない』  なんだよ気になるじゃん。いいよ、読むから。 『心を読まれて嫌がられないなんて初めてだ。どうしたらいいのかわからない。こんなに誰かと話をするのも初めてだ。本当にどうしたらいいのかわからない……。でもなんか嬉しいな……。いや、これも読まれるのか。ダメだ恥ずかしいだろ。あ、いや違う。嫌なわけじゃない、ただ恥ずかしいだけだ』 「ぶはっっ!」  思わず俺は吹き出した。  なに、黒木可愛いなっ!  黒木のことをまだちょっとしか知らないのに、すげぇ好きだと思った。黒木の言葉には嘘がないとわかる。伝わってくる。  どうしよう俺、黒木が好きだ。絶対に友達になりたいっ!  心を読まれて気味が悪いなんて感情は、もうすでに俺の中から消え去っていた。 『なぁ、もう俺ら友達でいいよな? な?』 『……野間がいいなら、俺は別に』 『マジでっ? やった! めっちゃ嬉しいっ!』 『……野間は……そんなに簡単に人を好きなるのか?』  じっと見下ろされて真剣な表情で問われる。 『いや? そもそも誰かを好きだって思ったの、黒木が初めてだよ。だってこんな嘘がないあったかいヤツ、いままで出会ったことねぇしっ』  ニッと笑いかけると、黒木は困惑したような顔をする。 『まだなにも深く話してないのに、俺のなにがわかるんだ』 『ん? そっか……なんでだろ? でもわかるよ。黒木はあったかい。いままでいっぱい色んな心を読んできたんだ。黒木がすげぇあったかいことくらい、もう充分伝わった』 『……それを言うなら、野間も……あったかいな』 『え、マジで? なに俺ら両想いじゃんっ。やりぃ!』 『…………野間はいつもそんなノリなのか?』 『え?』  黒木に問われて考えた。いつもの俺はどうだっけ。  そうだ、俺に対する嫌な感情がいつ流れて来てもいいように、もっと気を張っている。  新学期は特に慎重に、誠実そうなヤツを見極める。  何年も付き合っている友人ですら、気を許してはいない。逆に、ある程度嫌な感情を見てきているから、余計に気を許せないところもある。 『なんでだろ? なんか俺、黒木と友達になれてすげぇ嬉しくて、浮かれてるかも』  自分のテンションがおかしいことに気づいて、ちょっと恥ずかしくなった。  黒木を見上げると、常にデフォルトのように刻まれてた眉間のシワが取れている。  あ、これもしかして黒木も嬉しいのかな?  黒木が俺をチラッと見て、すぐに視線をそらすと言った。 『……ちょっとだけな』  ん? あ、嬉しいってことか。  なんだよちょっとだけって。素直じゃねぇな、と俺は笑った。  黒木と話していると、ただ考えたことにも返事が返ってくるからちょっとややこしい。  でもなんだろう、そのややこしいのがなぜかじわっと嬉しい。  黒木を見上げて笑いけると、黒木が柔らかい表情で返してくれた。まだ知り合ったばかりだけど、黒木のこれが普通の人の笑顔と同じくらいの価値があるとわかる。  黒木と笑顔で見つめあって、俺ははたと気づいた。 『なあ、俺ら相当キモくない?』 『……なにがだ』 『いや、だってはたから見たらさ……男二人がなんもしゃべらねぇで、時々見つめあって笑ってんだぞ……?』  そう言ってしばし二人で見つめあったのち、黒木がぶはっと吹き出した。  拳を口に当ててクックッと笑い続ける黒木に、俺はポカンとしてしまう。  やっぱり、これが素の黒木なんだ。もしかして、こんな黒木は俺しか知らないのかな?  なんか優越感なのかなんなのか、よくわからない感情がむくむくとわいてくる。やばい、めっちゃ嬉しい。  俺の視線に気づいた黒木が、ゴホンと咳払いをしてギュッとまた眉間にシワを寄せた。 『……俺も……相当浮かれてるみたいだ』  眉間にシワを寄せてるくせに、ちょっと照れくさそうに見える黒木が可愛い。  なにもう黒木めっちゃ可愛いんだけど。やばい。  ずっと見上げていたら首が痛くなるほど背が高くて、こんなゴツくて、眉間のシワがデフォルトなのに可愛いとかやばい。 『俺は可愛くない』 『へ? あ、うんわりぃ。可愛かったから思わずっ。へへ』 『……野間は……変なヤツだな』  あ、またさっきの柔らかい表情だ。  眉間のシワが取れると嬉しい。ホッとする。  黒木の心が穏やかだってことだから。   『野間みたいなヤツがいるなんて。信じられない。この俺がこんなに笑うなんて。笑ったの……何年ぶりだろう……』  ずっと静かだった黒木の心から、かすかにだけど聞こえてきた。  笑ったのが何年ぶりってどういうことだ?  よく腹を抱えるほど笑ったときに「こんな笑ったのいつぶりだろ」とか言うときあるはあるが、黒木の笑いはそこまでじゃない。  黒木はいままでどう生きてきたんだ……?
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