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5
『野間が……聞かれるのが嫌なんじゃないかと思っただけだ。俺は、嫌じゃない。というか……』
『というか?』
『……いや、なんでもない』
なんだよ気になるじゃん。いいよ、読むから。
『心を読まれて嫌がられないなんて初めてだ。どうしたらいいのかわからない。こんなに誰かと話をするのも初めてだ。本当にどうしたらいいのかわからない……。でもなんか嬉しいな……。いや、これも読まれるのか。ダメだ恥ずかしいだろ。あ、いや違う。嫌なわけじゃない、ただ恥ずかしいだけだ』
「ぶはっっ!」
思わず俺は吹き出した。
なに、黒木可愛いなっ!
黒木のことをまだちょっとしか知らないのに、すげぇ好きだと思った。黒木の言葉には嘘がないとわかる。伝わってくる。
どうしよう俺、黒木が好きだ。絶対に友達になりたいっ!
心を読まれて気味が悪いなんて感情は、もうすでに俺の中から消え去っていた。
『なぁ、もう俺ら友達でいいよな? な?』
『……野間がいいなら、俺は別に』
『マジでっ? やった! めっちゃ嬉しいっ!』
『……野間は……そんなに簡単に人を好きなるのか?』
じっと見下ろされて真剣な表情で問われる。
『いや? そもそも誰かを好きだって思ったの、黒木が初めてだよ。だってこんな嘘がないあったかいヤツ、いままで出会ったことねぇしっ』
ニッと笑いかけると、黒木は困惑したような顔をする。
『まだなにも深く話してないのに、俺のなにがわかるんだ』
『ん? そっか……なんでだろ? でもわかるよ。黒木はあったかい。いままでいっぱい色んな心を読んできたんだ。黒木がすげぇあったかいことくらい、もう充分伝わった』
『……それを言うなら、野間も……あったかいな』
『え、マジで? なに俺ら両想いじゃんっ。やりぃ!』
『…………野間はいつもそんなノリなのか?』
『え?』
黒木に問われて考えた。いつもの俺はどうだっけ。
そうだ、俺に対する嫌な感情がいつ流れて来てもいいように、もっと気を張っている。
新学期は特に慎重に、誠実そうなヤツを見極める。
何年も付き合っている友人ですら、気を許してはいない。逆に、ある程度嫌な感情を見てきているから、余計に気を許せないところもある。
『なんでだろ? なんか俺、黒木と友達になれてすげぇ嬉しくて、浮かれてるかも』
自分のテンションがおかしいことに気づいて、ちょっと恥ずかしくなった。
黒木を見上げると、常にデフォルトのように刻まれてた眉間のシワが取れている。
あ、これもしかして黒木も嬉しいのかな?
黒木が俺をチラッと見て、すぐに視線をそらすと言った。
『……ちょっとだけな』
ん? あ、嬉しいってことか。
なんだよちょっとだけって。素直じゃねぇな、と俺は笑った。
黒木と話していると、ただ考えたことにも返事が返ってくるからちょっとややこしい。
でもなんだろう、そのややこしいのがなぜかじわっと嬉しい。
黒木を見上げて笑いけると、黒木が柔らかい表情で返してくれた。まだ知り合ったばかりだけど、黒木のこれが普通の人の笑顔と同じくらいの価値があるとわかる。
黒木と笑顔で見つめあって、俺ははたと気づいた。
『なあ、俺ら相当キモくない?』
『……なにがだ』
『いや、だってはたから見たらさ……男二人がなんもしゃべらねぇで、時々見つめあって笑ってんだぞ……?』
そう言ってしばし二人で見つめあったのち、黒木がぶはっと吹き出した。
拳を口に当ててクックッと笑い続ける黒木に、俺はポカンとしてしまう。
やっぱり、これが素の黒木なんだ。もしかして、こんな黒木は俺しか知らないのかな?
なんか優越感なのかなんなのか、よくわからない感情がむくむくとわいてくる。やばい、めっちゃ嬉しい。
俺の視線に気づいた黒木が、ゴホンと咳払いをしてギュッとまた眉間にシワを寄せた。
『……俺も……相当浮かれてるみたいだ』
眉間にシワを寄せてるくせに、ちょっと照れくさそうに見える黒木が可愛い。
なにもう黒木めっちゃ可愛いんだけど。やばい。
ずっと見上げていたら首が痛くなるほど背が高くて、こんなゴツくて、眉間のシワがデフォルトなのに可愛いとかやばい。
『俺は可愛くない』
『へ? あ、うんわりぃ。可愛かったから思わずっ。へへ』
『……野間は……変なヤツだな』
あ、またさっきの柔らかい表情だ。
眉間のシワが取れると嬉しい。ホッとする。
黒木の心が穏やかだってことだから。
『野間みたいなヤツがいるなんて。信じられない。この俺がこんなに笑うなんて。笑ったの……何年ぶりだろう……』
ずっと静かだった黒木の心から、かすかにだけど聞こえてきた。
笑ったのが何年ぶりってどういうことだ?
よく腹を抱えるほど笑ったときに「こんな笑ったのいつぶりだろ」とか言うときあるはあるが、黒木の笑いはそこまでじゃない。
黒木はいままでどう生きてきたんだ……?
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