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76 最終話✦6
俺たちは玄関を出てすぐに手をつないだ。
ちゃんと校舎を出たからもういいよな?
また注目を浴び始めたけど、もう開き直ったからどうでもいい。
聞こえよがしになにか言われるたびに、あえて笑顔を向けてやった。ちょっとひるむのが面白い。
「野間ーーーっ! 黒木ーーーっ! おーーーい!」
校舎の前を通りすぎたあたりで、俺たちの名前を叫ぶ声が聞こえてきた。
声は上から聞こえてくる。
岳と顔を見合わせて校舎を振りあおぐと、俺たちの教室の窓から木村が顔を出して手を大きく振っていた。
「野間! 黒木! 一緒に帰ろーぜっ!!」
「……えっ?」
さっき田口を俺たちに近づかせないようにしたのは木村なのに、なにがどうなってんの?
木村の横で田口も笑顔で叫んだ。
「野間ーーーっ! いま行くからーーーっ! 待っててーーーっ!」
教室の窓から二人の姿が消えた。
「なに……どういうこと……?」
周りにいる下校中のやつらも、何事かと足を止めている。
この俺たちに、男同士で手をつないで注目を浴びてる俺たちに、「一緒に帰ろう」と言った二人の登場を待っている。好奇心、期待、疑心、野次馬、いろいろだ。聞こえてくる声からも心からも、それがわかる。
「徹平、窓見てみろ」
「え?」
岳に言われてまた上を見上げると、クラスのやつらが俺たちに手を振っていた。
……なんで? ほんとどうなってんの?
「お前らカッコイイなーーー!」
「クラスみんなお前らの味方だぞーーー!」
「応援するぞーーー!」
「もうクラスの名物だねーーー!」
「二人ともお似合いだよーーー!」
さっき俺たちを否定せずに見てくれてたやつらだ。
え……。いじめパターンその一はどこに消えた……?
わけがわからなくて混乱する。
「岳……これ……」
「いったいなにが起こった……?」
岳と二人で困惑して立ちすくんでいると、「野間っ、黒木っ」と、木村と田口が駆け寄ってきた。
「よかったぁ。ちゃんとまだいたっ」
「あー! めっちゃ走ったっ!」
「いや……いるよ、そりゃ……。でも、なんで……?」
木村は田口を守らなきゃダメだろ?
二人は、はぁはぁとすごい息を切らして、木村は岳の肩を、田口は俺の腕をつかんだ。
二人の心から聞こえてくる声が、ますます意味がわからない。
『ちゃんと注目浴びてるか? お、みんな見てる。よしよし』
『すごいっ。木村の言うとおりだっ。野次馬いっぱいっ』
二人ともなに言ってんだろ……。
岳を見るとやっぱり不思議そうに首をかしげてる。
困惑顔で岳が二人に問いかけた。
「なにがどうなってるんだ? クラスのやつらにも味方だ、と叫ばれたが……」
木村がニッと笑って岳の肩をたたく。
「そのままの意味だろ? 二人の味方がいっぱいいるんだよ。……まあ、そうじゃないヤツもいるけどさ」
『西川はどっか消えちゃったし』
とちょっと渋い顔をして、また笑顔を見せる。
「とにかく、うちのクラスはみんな二人を応援してんだっ」
『二人を真似したいけど俺には絶対無理だ……。それでも、なにか力にはなりたい。二人がみんなの輪の中に入れるように、俺が二人の架け橋になりたい。俺がやらなくて、ほかに誰がやるんだ』
木村の心が優しくてあったかくて、思わず感動して涙がにじんだ。
木村はいつでも俺たちをクラスの輪の中に入れようとしてくれるんだな。こんなことになっても、俺たちのために動いてくれるんだ……。
「二人が教室を出て行ってすぐ、木村がみんなに言ったんだ。『あいつらカッコ良くねっ?』って」
田口がニコニコしながら教室でのいきさつを話してくれた。
「木村が『俺はあいつらと同じクラスなの自慢したいけどなっ』って西川に言ってさ。そしたら『俺もそう思う』って声がポツポツ上がったの。様子見してた人たちもいっぱい『私もそう思うーっ!』って。フタ開けたら二人の味方がいっぱいいたよっ」
『本当すごいびっくりした。木村めっちゃカッコイイ……っ!』
田口の話に感動していたら、心の声があまりに可愛くて顔がニヨニヨしそうになった。やばいやばい。
岳が優しい笑顔で二人に言った。
「木村、田口、二人ともすごいな……ありがとう」
「ほんとありがとうっ! 二人ともっ!」
俺も岳のあとに続けると、木村が顔を赤らめた。
「な、なんだよ、照れんじゃんっ。そういうのいいってっ」
「俺は、なんもだよ。全部木村がやったんだ」
そう言うと田口は、さらに俺たちに近づいてコソッとささやいた。
「こういうのは、効果的にやったほうがいいんだって言って窓から叫けぼうって提案したのも木村だよ」
「効果的……?」
「うん。きっと二人が手をつないで悪目立ちしてるだろうから、クラス中が二人の味方だよって周りにアピールしようぜって木村が」
『木村の言うとおり、効果あったみたい』
言われて周りを見てみると、さっきまでとはあきらかに違う。みんなの視線がどこかあったかい。
聞こえてくる心の声にも嫌悪は少なかった。
集団で固まると強い意見に飲み込まれる。これは木村が起こした奇跡だ。
木村が勇気を出して声を上げてくれたから、みんなも勇気を出して本音を言うことができたんだ。木村すげぇな。ほんと田口の言うとおりカッコイイよ木村。
隣から『ほんといいヤツらだな』と聞こえてきて岳を見上げた。
木村と田口をすごく優しい瞳で見ている岳に、思わず嬉しくなってつないだ手にグッと力がこもる。岳はそんな俺を見てふわっと微笑んだ。
「おっ、まだいた! 野間! 黒木!」
「おーい! みんなでどっか行こうぜー!」
クラスの男子軍団もやってきて、俺も岳も後ろから飛びついて抱きつかれた。
「おい、それはダメだろっ」
木村が抱きつく男子にツッコむと「え? なにが?」と不思議そうに聞いた。
「彼氏以外の男が抱きつくのはダメだろっつってんのっ」
「へ? あ? ああ、そっか」
と岳に抱きついてた男子は離れたけど俺のほうはまだ離れない。
「えー別にいいだろ? ただの友情じゃんっ」
と男子は言い返した。
たしかにこんなの、学校では普通だもんな。
でもそう思ったのは俺だけだったようで、岳は真面目な顔で言い放つ。
「いや、ダメだ。離れろ」
「おわっ」
俺の背中から男子を無理やり引っぺがす岳を見て、みんながポカンとしたあとに爆笑した。
「えっ! 黒木ってそういう感じ? マジかっ、おもろっ!」
「なんだよ、いっつもすました顔してんのにっ。ウケるっ」
「嫉妬心むき出しの黒木のが俺好きだわっ」
『いけすかねぇヤツだと思ってたけど全然じゃんっ』
まさかこんな反応が返ってくるとは思っていなかったみたいで、困惑してる岳がおもしろい。
肩を組まれては「離れろ」「やーだねっ」「離れろって」とじゃれあってる岳がレアすぎるっ。
俺はつないだ手を離して急いでスマホで動画を撮った。
「おい徹平、なにしてる?」
「えー? だって岳が可愛くて」
肩を組んでるヤツもノリノリで動画におさまった。
岳のこんな動画が撮れるなんてマジでウソみたいだ。
今度岳のお父さんに会うとき見せてあげよう。
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