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エピローグ
じゃり。
踏みしめた河原は、まるで時間が止まっていたかのようにあの日のままだった。
カブトムシが大好きで、少し内気な男の子に出会った、あの不思議な日の。
周囲を野山に囲まれ、透き通るような清流が脇を流れている。
そして、少し遠くに見えるのは、内気な男の子が住んでいたコテージ。
彼はまだいるだろうか。
60年ぶりに目が覚めた私は、自分の手元にフェルトフレームがないことに気づいた。
そして、あの日出会った男の子に預けたきり、そのままになっていることを思い出したのだ。
だから今日、私は再びこの河原にやってきたのだ。彼に預けた忘れものを受け取りに。
もし彼が、いなくても構わなかった。いや、むしろいない方が自然だった。
あれから60年もの時間が経っているのだから。
それでも、私はここに来た。ともすれば、私は忘れもの以上に、確かめたかったのかもしれない。
60年経った今でも、私がこの世界で一人じゃないかもしれないことを。
その時だ。
遠くのコテージから一人の男の子が飛び出した。
彼はきょろきょろと周囲を見渡した後、私の存在に気づいた。
そして、勢いよく私の方に駆け出した。
少しずつ近づく男の子の相貌がはっきりするにつれ、私は目を疑った。
走ってくる男の子が、あの日一緒に遊んだ男の子と瓜二つだったからだ。
そして、男の子が私の元に辿り着いた時、彼は必死に私に言葉を投げかけた。
彼のおじいさんがコテージで眠っていること、そしてそのお爺さんが生涯女の子の似顔絵が差し込まれたフェルトフレームを持ち続けていたことを。
「だから、早く!早くじいちゃんに会いに来て」
「…はい」
男の子が、背を向けて走り出した。
私も当時ほど思うように動かなくなった両足を必死に動かして、コテージへと駆け出した。
彼が持ち続けてくれた、私の忘れものを受け取りに。
頭上を照らす昼下がりの太陽が、河原の石をきらきらと照らす。
その反射光が眩しいからだろうか、瞳に滲んだ涙を、私は走りながら拭う。
そして微笑んだ。
60年ぶりに見たこの世界は嘘のように眩しくて、温かかったのだった。
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