双子の兄弟はいつも一緒

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 月翔は裁判長として検事と弁護士の論戦に耳を傾けていた。陽翔のこれまでのことは全て頭に入っている。暗黒街の帝王と呼ばれるだけに極悪非道たる存在、悪に染まりに染まりきったマフィアの若頭(かしら)補佐。これまで陽翔に奪われた「財産」「命」は計り知れない、無辜の人までも虐げる狂える暴凶星も同然だ。しかし、これでも「大好きなお兄ちゃん」故に裁きを下すことは躊躇われる、正直なところ、弟としての自分は兄に更生の道を歩ませるために尽力したいと考えている。そのために裁判長として学んだ法律の知識(ちから)を奮うことに躊躇いはない。だが…… 今の自分は裁判長。兄がこれまで犯してきた罪と向き合い罰を与える判決を下す立場にある。そう、自分が纏う漆黒の法服のように何者にも染まることは許されない。検事と弁護士の論戦と提出された証拠品に耳を傾け、証人席で震える鉄砲玉の顔を見た上で判決を決めたのだった。  月翔は判決を述べる前に、軽く俯き自分の纏う法服を眺めた。漆黒の法服は何者にも染まることはない。だが、既に黒く染まっているではないか。黒く染まった自らの判決は正義と信じ、木槌を叩いた。 「主文を後回しにして、判決を述べます。スマートフォンに録音された音声から、殺人の教唆は明白。これ以上の審議を必要としません。よって、被告人に有罪判決を下します」 それを聞いた陽翔は驚き、立ち上がった。そして、激しく怒鳴り散らす。 「ふざけんな! 実の兄貴を死刑にするつもりか! 月翔ぉ! こんなことが許されると思ってるのか!」 月翔は木槌を叩き、淡々とした口調で述べた。 「静粛に。もう判決は下りました」 その後も、陽翔は獅子や虎のような叫びで月翔を罵った。これ以上話すことはない。月翔は陽翔に退廷を命じた。この状況での退廷は、この世からの退廷を意味する。もう殺人教唆の罪で死刑が決まっているのだから……  程なく、陽翔の死刑執行がなされた。刑務所の中庭にて銃殺刑での執行である。 陽翔であるが、杭に縛られ目隠しをされた今際の際でさえも弟の月翔の名を叫び罵っていたと言う。纏っていたのは白い襤褸布も同然の囚人服。悪に染まった陽翔は最後は自らの血で赤く染まることで償いを行ったのである。 暗黒街の帝王と称された陽翔の死によって、組は瓦解し解散。陽翔が勢力範囲(シマ)としていた歓楽街からもマフィアの姿が消え、街の浄化がなされたのであった。
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