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春、到来。(3)
「くっそ、ぁア、クッソ!! 誰がてめぇみたいなガキ相手に処女とか捧げるかッ!! っぁー、もう、帰る。帰んぞ、駿」
「帰るって……高千代さん、そいつと一緒に住んでるの? 従兄弟だよね? ただの従兄弟なのに、一緒に、住んでる、の……?」
「ぁ? ちげぇよ。こいつの親には色々と頼まれてるから、仕方なく仕事帰りのついでにこいつ拾って家まで送ってやるってだけだ」
実際、色々と頼まれてるのは事実だし、クソ腹立つ従弟様の世話焼いてやる理由はそれだけじゃねぇけど。今、会ったばかりの三代にも、駿にも、言う気はねぇけどな。
「え、じゃあ、俺も送って欲しいな。高千代さんと一緒に帰りたい」
「いいんじゃね? 送ってやっても。なんなら助手席に座らせてやれよ、ヒロ」
おいおいおいおい。他人事だと思って面白がってんじゃねぇよ。
「あ、のなぁ、なんで俺が見ず知らずのガキを送ってやらなきゃいけねぇんだよ」
「助手席? 高千代さん、車なの? えへへー、嬉しいなぁ、高千代さんの車に乗れるんだぁ。高千代さんの隣に座れるんだぁ。嬉しい」
………………。
「……おい、行くぞ。さっさと歩かねぇと置いてくからな」
「やだやだ!! 置いてかないで!!」
と、歩き出した俺に三代が慌てて着いてくる。そんな俺たちをニヤけ面で見てくる駿がチラッと視界に入ったので脳内でぶん殴っておく。
駐車場までの道を歩きながら、なんでこんなついさっき会ったばかりのガキを車に乗せようとしているのかと自問自答する。
嬉しいと言った三代が本当に嬉しそうだったからって。
馬鹿か、俺は。
どこまで本気なのかは分かんねぇ。
でも、向けられた好意を無下にはできなかった。
……絆されてんじゃねぇよ。
俺のことが好きだと必死に伝えてくる姿。
そんな三代の姿に少しだけ、ほんの少しだけ。
"あいつ"が重なった。
三代と"あいつ"は違うのに。
似ているところなんてないのに。
それでも重なりやがった。
嫌でも思い出してしまう。
性別を言い訳にした。
年の差を言い訳にした。
そうやって逃げていた。
あの日の痛みを。
胸の奥が軋んで、
それに――
気づかない振りをした。
【春、到来。/完】
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