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05 守りたいと思った日のこと
あれから同じ場所、同じ時間に俺の歌が好きだと言ってくれた女の子と会うようになった。
三度目は言葉を交わすことはできなかった。
だけど一つ違ったんだ。
俺が歌って、あの子はそれを静かに聴いて。
俺はもう、独りじゃなかった。
四度目、走り去ろうとするあの子にダメ元で名前を聞いたら教えてくれた。
名前は友梨ちゃん。小学六年生だってことも一緒に知った。
少しずつだけど交わす言葉が増えて。
交わす笑顔も増えて。
友梨ちゃんが笑ってくれるとそれだけで幸せな気持ちになれた。
――ある雨の日のこと。
「ね。直にいちゃん、今日は雨だよ! だから、だから大丈夫だよ! 雨は泣くことができなくてガマンしてる人が泣けるようにって降ってるの!だからね、直にいちゃんは泣いてもいいんだよ、泣いても、」
俺を見据えてまくし立てるように友梨ちゃんは言った。
彼女は俺が泣くことのできる雨の日をずっと待ってたんだと思う。
「笑うのはそれからでいいんだよ」
会うたびに何か言いたそうにしてた。
会うたびに話す前に一瞬だけ空を見てた。
そのたびに少しだけ泣きそうになってた。
今なら分かるような気がするんだ。
それは雨が降ってほしかったから。
俺に我慢してほしくなかったから。
俺に心から笑ってほしかったから。
すべてが俺の想像でしかないけど。
子どもの純粋さから放たれたその言葉。
それは、ひねくれた俺の心のフィルターを通しても、歪められることなく心の奥底まで届いた。
俺はあの子の言葉に二度も泣いてしまったんだ。
最初は俺の歌が好きだよって言ってくれた時。
二度目は我慢しなくていいよって言ってくれた時。
あの子が俺に向けてくれたもの全てに俺は救われたんだ。
今の俺にも、当時の俺にも、その気持ちは大げさなものじゃない。
だからこそ守りたいと思ったんだ。
それを――守りたかったんだ。
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