始まりの小さな花

8/10
前へ
/18ページ
次へ
08 あの子がいなくなった日のこと  俺はできるだけ毎日、あの場所で友梨ちゃんを待ってた。  ずっとずっと待ってた。だけどいくら待ってもあの子はこなかった。  どうしたんだろう。なにかあったんだろうか。  けど改めて思い返してみると俺はあの子のことをなにも知らない。  俺が知ってるのはあの子の名前。  そして少し前に中学生になったということだけ。  だから俺には待ってることしかできなかった。  それから数日後。  ジャングルジムで歌ってる俺の前に友梨ちゃんの友だちが現れた。  その子は友梨ちゃんから俺のことをよく聞かされてたと話し、俺に小さな包みを差し出した。  その包みは前に友梨ちゃんに貰ったピックが入ってたのと同じ店の物。  大きさも同じで中身はピックだってすぐに分かった。  俺はその子から聞いた。友梨ちゃんのことを。  どうして友梨ちゃんがここに来なくなったのかを。  このピックを買いに行った帰りに信号無視の車に轢かれたことを。  その後、どうなったのか。自分でも分かるくらいに震えた声で俺は聞いた。  命に別状はないって聞かされて安堵の息を吐き出そうとした時に話されたこと。  それを聞いて俺は声がでなかった。  返す言葉が思いつかなかったんだ。 「友梨ちゃん、記憶なくしちゃったの」  俺はその子から友梨ちゃんが入院している病院と病室を聞いた。  この公園でしか接点のない行ってもいいのか迷った。  でも、このままじゃダメだと俺はそこに行くことにした。  病室に入ると友梨ちゃんがベッドの上で本を読んでた。  前と変わった様子はない。  ――だけど。 「友梨、ちゃん」  と声をかけた俺に友梨ちゃんは言った。 「おにいちゃんは……誰?」  と警戒の色を含ませて。  頭の中が真っ白になった。  なにかを思うよりも先にふらふらとした足どりでその場から離れて、  病院を出ると当時に俺は走ってた。  ただひたすら目指す場所もなく。  俺があの時、ピックをもう一個頼まなければあの子はこんなことにはならなかった。  だから俺のせいだと思った。  俺が全部、悪いんだって。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加