始まりの小さな花

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始まりの小さな花

01 クズだった日々のこと  中学二年生の時に俺は当時の担任の先生にクズ扱いされてた。  理由なんて単純なもので俺の頭が悪いからってことらしい。  プライドの高い先生は自分のクラスに落ちこぼれがいることが許せなかった。  ことあるごとに「バカ」や「クズ」と俺のことを罵ってた。  俺がバカな奴だなんて先生に言われるまでもなかったんだ。  そんなことは俺自身――『瀬戸井 直(せとい なお)』が他の誰よりも分かってたから。  だけど。  クズは違う。  俺はクズなんかじゃない。  最初はそれを言われるたびに口に出して叫ぶように否定してた。  なのに先生は俺がクズだって何度も言う。  俺にも、周りにも、何度も何度も、聞こえるように。  中学生のガキにとって『先生』っていう大人の存在はすごく大きく感じられた。  だからかな。相手が間違ってるのに先生の言うことは正しいんじゃないかって思い始めた。  だけど自分がクズな人間だなんて俺は思いたくなかった。そんなのは嫌だった。  そういう想いが俺の頭ん中でぐるぐる回ってよく分かんなくなった。  自分を信じたかった。だけどそのために必要なものが俺には何もなかったんだ。  それで思ったんだ。こんな俺は先生の言うようにやっぱりクズなんだと。  それを否定したくて頭ん中はいつもごちゃごちゃで息苦しくて。  それから逃げるために俺はバカなことを思いついたんだ。 『本物のクズになれば頭ん中がごちゃごちゃしなくていい』  なんてホントにバカなことを。  それで俺は不良ってやつになることにしたんだ。  単純な頭で真っ先に浮かんだのは髪を染めること。  なんとなく惹かれたワインレッドに染めた。  その色が気に入ったから目もカラコンで近いものにした。  学校もサボるようになって酒や煙草にも手を出した。  女の子とも遊んだり、口も態度も悪くして俺は不良になったんだ。  そんな中で先生は俺の素行の悪さを俺の家族のせいにした。  どこにでもあるような温かい家庭なのに親の教育が悪いと決めつけた。  親は俺の非を認めた上で先生が誇張した俺に関する悪い噂じゃなく俺自身を信じてくれた。  あとになって『俺がグレてた時、どうして見捨てなかったんだ?』って母さんに聞いたんだ。 『人を傷つけることだけはしない子だったから。  もし人を傷つけるようなことをしていたらぶん殴ってた』  って返ってきて。  あれはちょっとだけ照れくさかった。  そして。  俺を庇おうとしてくれたのは俺の親だけじゃなかった。  俺には同い年で同じ学校に通っている従兄がいるんだ。  名前は『瀬戸井 充(せとい みつる)』っていうんだけど俺はみぃちゃんって呼んでる。  みぃちゃんや彼の家族、俺の友だち。  皆が俺のことをかばってくれた。  こんなふうに俺にはたくさんの味方がいたんだ。  そのことを知ってたのにな。  気づいてたのにな。  正面から向き合おうとはせずに俺はいつも逃げてた。  俺は親戚を含めた家族や友だちが大好きで。  だから皆の悲しい顔なんて見たくなかった。  でもそんな顔をさせてるのは他の誰でもない俺だ。  分かってた。それは分かってたんだ。  だけど俺は自分のことが分からなくて、  そんなだから頭の中はいつもごちゃごちゃで、  色んなことに耐えられなくなった俺はあまり家に帰らなくなった。
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