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さて。当の王子はまだ叫んでいたのだが、足音から〈彼〉が近づいてきたことを察知すると扉に背を向け、そこからトーン、声量をあげて、息継ぎもなしにテンポ良く叫んだ。
「決めた決めた決めた決めっ、っぐ!」
塞がれた口、肩に置かれた手。
そして同時に、
「なにをっ、決めたっ、のかなぁっ? ロバートっ、おう、じぃぃィィ……」
恨みがましい声の持ち主こそがロバートが待っていた役者、いや――ファルド王国アルディア少年隊の隊長でありながら、なぜかロバートの教育係も任されているピーター・オルディエンス、通称、ピートだった。
ロバートの父、アウディックにより治められているファルド王国はとても大きな国で、自国の防衛のために騎士団をいくつか擁している。
ピートが隊長をしているアルディア少年隊は十代の少年たちによって構成されていて、騎士団へ入団するための登竜門となっているのだ。
その日まで彼らは国周辺に出没する魔物の退治をしたり、剣技や馬術などの実技を始め、様々な分野の学問を学びながら過ごす。
多くの少年たちが騎士団に入団するために毎日のように鍛錬を欠かさず自分を磨いているのだが、ピートも例外ではなくて、その結果、今の隊長という地位を手に入れたのだ。
ピートは能力の高さだけではなく人柄も評価されていて、隊員からは隊長として慕われ、騎士団の団員からも国を護るために共に闘うことになるだろう若者として期待されていた。
はずだったのだが。
ピートは自身に問いかけた。こんなわがまま王子のためにアルディア少年隊の寮から城まで全速力で走り、城の最上階にあるロバートの私室までやってきた俺はなんなんだろうと。
自分の役目が護衛というのならまだ分かる。だが自分に求められているのは教育係とは名ばかりの王子の暇潰しという役目で、真剣に騎士を目指しているピートにとっては迷惑で不名誉なものでしかない。
それはさておき。ロバートは自分の口を塞ぐその手をどけようと暴れているのだが、ピートは微動だにせず、肩に置いた手に力を込め、一喝した。
「この馬鹿王子ッ! 今度はなにをしでかすつもりなんだッ!」
馬鹿でも王子は王子なので言葉遣いには気をつけるべきではないかという気もするが、このような態度で王子と接することを王からは許可を得ていたし、このような態度になってしまう理由がピートにはあった。
そう。自分が隊の任務を満足にこなせなくなった元凶は――自分を教育係に指名したのは他でもないロバートだったのだ。
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