彼女の色

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 彼女はなんでもピンクにしたがる。口紅の色、アイシャドウ、ネイル、髪の毛、コンタクトレンズ、洋服や靴や鞄、ノートに傘に歯磨きコップに自転車、そして僕の着る服まで。  はじめてTシャツをピンクに染められた時は仰天した。即座に彼女のところへすっ飛んでいった。お気に入りの一枚だったわけじゃない。セール品のイケてないプリントのTシャツだ。けれど断りもなくど派手なピンク色にされたことに、おおいに腹が立った。いくら付き合っているからって、勝手にこんなことをするなんて。  しかし彼女はちいとも平気だった。わめきちらす僕を前にケロリとして、 「すっごく似合ってる! とっても可愛い。あなたの顔はトイプードルみたいにやさしいから、ピンクと相性が良いのね」  と、無邪気に褒めるのだ。  僕はすっかり怒る気を失くしてしまった。全然懲りていない相手に本気で怒っても、ばかばかしいだけだ。それに可愛い可愛いと絶賛されて、正直まんざらでもなかった。不思議だ。彼女があまりにも無反省で、屈託がなくて、取り繕おうとするいやらしさが少しも見られなかったからだろうか。  それとも気に入っていないTシャツを黄ばむまで着古している自分に、心の奥底ではうんざりしていたからかも判らない。
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