彼女の色

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 ある時、僕は授賞式に出ることになった。描いた絵が認められたのだ。今までにこんな大きな賞を獲ったことはなかった。ようやく道が開けたような心持ちだった。  授賞式の朝、緊張しながら支度をする僕に、彼女はお祝いにと、贈り物をくれた。今日の為に買ってきたの。箱を開けると、ピンクのネクタイが入っていた。  君の気持ちは嬉しいけど、と、僕は箱ごとネクタイを返した。とても権威のある賞の式典なんだ。ピンクじゃ少し浮かれているような気がする。もっと立派で、落ち着いていて、実力のある人物に見える色じゃなければ。  いいえ、と、彼女は首を横に振った。そういう式だからこそ、ピンクが良いのよ。あなたに一番似合う色だし、きっとみんなあなたがやさしくて可愛い人だって、ひと目で判ってくれるから。それに、ピンクを見ると、気分が安らぐでしょう。  やさしくて可愛いことは、今、必要ではないのだ。今、大事なのは、実力があって、才能があって、これから大物になっていくとみんなに思わせることなのだ。どうしてそれが判らないのだろう。暢気(のんき)なことばかり言う彼女に、僕は怒りをおぼえた。 「君は世界をピンク色に染め上げたいんだね」 「ええ、そうよ。だって、ピンクって、とっても幸せで、あたたかな気持ちになる色でしょう。心の色、愛の色だから。私は世界を、愛で満たしたいの」
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