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彼女は僕の苛立ちを全く理解していないようだった。嫌みだと気づかずに、いつものように朗らかに、夢見るように、言った。
僕はふわふわと甘ったるいピンクに全身包まれた彼女に、胸がむかむかした。こっちが人生の大舞台って時に、ふざけている。そう思った。僕は彼女に背中を向けて、思いきりとげとげしく吐き捨てた。
「君は独善的だよ。いつでも何でも、ピンク、ピンク、ピンク、ピンク。ピンクを押しつけられて、厭な人間だっているんだ」
彼女の笑顔が消えたのが、背を向けてでも判った。
「そう、そうね、ごめんなさい。大事な式の前に」
消え入りそうな声で謝ると、彼女はピンクのネクタイの箱を持って、行ってしまった。
僕は自分が選んだハイブランドのネクタイをして出かけた。自分で奮発して、買ったものだった。授賞式でそのセンスを褒められ、鼻が高かった。自分がひとかどの人物として扱われたようだった。
けれども帰りのタクシーで、僕はひどくむなしい気持ちになった。ネクタイは高級で上品な色だったけど、微塵も気に入ってはいなかった。僕には不釣り合いの、値段が高いだけのネクタイだった。
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