彩眼鏡

6/7
前へ
/7ページ
次へ
 ピンクのメガネは、トキメキを彩るらしい。  それに気が付いたのは一週間後のことだった。どうやら、あの店のメガネをかけると、メガネを借りたことを忘れてしまうらしい。前回同様、カードを見た瞬間に全てを思い出し、私はまたメガネ屋へと走った。 「次は何色にしようかな…」  一つのメガネに、私は手を伸ばす。 「見て、泣いてるわ。私はなんて可哀想なことをしてしまったのかしら。きっと一晩中私を待っていたに違いないのに。何度も私を呼んだことを覚えてる。だけど、忙しさを理由に私は振り返らなかった。あの時ちゃんと応えていたら。そうしたらきっと、こんなことにはならなかったのに…。ごめんなさい、どうか私を許して」  鼻を啜る私の背後で、家族が口々に言う。 「母ちゃん何言ってんの?電子レンジに煮魚入れっぱなしにしただけじゃん」 「一体どうしたんだ?お母さんは。お前たち知ってるか?」 「分かんない。けど母ちゃん、昨日も泣いてたよ。父ちゃんのセーター抱き締めながら」 「洗濯して縮めちゃったヤツな」 「その前の日も泣いてたよね。あなたたちを凍えさせるところだったって」 「お風呂の栓、忘れてたんだっけ…」 「どうしたんだろうね、母ちゃん」 「うん、おかしいよね」  そう。青は、悲しみの色。  一週間後、全てを思い出し、私は頭を抱えた。  間違いない。私の望む世界はこれじゃない。  どれ?どれが一番いいメガネ?私は目の前の金色メガネを掴んだ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加