プロローグ

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吹き付けてくる風と針のように当たってくる雨を全身で受けながらゆっくりと学校に向かって行く。その時、左手に持っていたスマホが小刻みに震えたのがわかった。雨音で通知音は聞こえないが確かに震える感覚がある。まだスマホは震えている。画面を確認すると、彼女からの電話だった。壁際に寄って出ると、いつになく小さく、弱々しい声が聞こえた。 「あ、もしもし?」 「もしもし、どうしたの?」 三秒ほど間があった。その間、スマホの先からはこちらと同じように何やら雨の当たる音がしていた。スマホに風が当たる音で彼女の声は聞こえない。 「もしかして今外にいる?」 一拍間をあけて「屋上」とだけ答えた。ユウヒは彼女がこんな天気の真夜中に屋上にいることを不審に思いながらも自分の要件を話すことにした。 「あのさ、大事な話があるんだけど…聞いてくれる?」 ユウヒは不安と緊張、そして少しばかりの期待をしていた。ずっと言いたかった、もう一ヶ月前からずっと、ずっと言いたかった言葉をついに言う機会が来たのだ。彼女からの返事が聞こえない。ユウヒは待ちきれず自分から話を切り出した。 「もう、別れたいんだ。一ヶ月くらい前から他に好きな人ができてさ、その子からもう告白もされてて、後は別れるだけって言うかさ」 ユウヒはわざと冷たい言い方をする。早く別れたい。早く、早く、早く。そんな気持ちが何よりも強かった。それからやっと彼女の声がユウヒの耳に入ってきた。 「うん、わかってた。本当はずっと前からわかってたんだよ。ユウヒ、隠すのへただから。でもそれだけあの子のことが好きってことなんだよね」 ユウヒは何も言わなかった。何も言わずにただ、ただ頷いた。「ごめん。」たったひとことすら言わずにただ頷いた。突き放さなければならない。そうしなければきっと別れさせてはくれないから。極限まで突き放さなければ彼女はこのままずっとユウヒに依存し、ユウヒなしでは生きていけなくなる。そう思ったから。だから今日、彼女に別れ話をしたのだ。その為に小学校からの幼馴染に協力してもらい、彼女に誤解をさせた。できるだけ彼女といる時間を減らし、その分の時間を幼馴染と一緒に過ごすことにした。どうしてこんなことをするのか、問われたことがあった。それでもユウヒは答えなかった。何度聞かれても答えなかった。必死に頼んで引き止めた。どうしても、どうしてもやらなければならない事だったから。
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