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「次、私の番ね。私もやりたい事があってユウヒをここに呼んだの。」
「…なに?」
また暫くの間。
「私ね。ユウヒのことが本当に好きだったんだ。今も好き。私もうユウヒがいないと何も出来ないの。」
そんなことないよ。そう言おうとして口を噤んだ。ここで優しくしてはますます離れなくなってしまう。そうなれば傷つくのは彼女の方だと思ったのだ。
「でも俺はもう一緒にはいられない。他に大切な人ができたんだ。」
力強く言った。決心したように。説得するように。
「わかってるよ。だからね、私は二人の恋を応援することにしたんだ。」
ユウヒは驚き、声が出なかった。彼女はいわばメンヘラ女子であった。常にユウヒと共にいることを望み、そのための行動をいくつもしてきた。時には卑劣なことだってしていた。それでも彼女は満足そうに笑っていた。幸せそうに。それは世界の誰よりも幸せな顔だった。そんな彼女が立場を他の女子にすんなりと受け渡すなど、前代未聞の出来事なのだ。
「私はね、今日、この場所でユウヒに呪いをかけようと思うんだ。そしたらね、ユウヒは私の思うままになるの。だからそれまでのほんの少しの時間だけは二人の恋を認めてあげるの。」
ユウヒは彼女が何を考え、何を言っているのか理解できなかった。彼女の言っている意味、意図がわからなかった。
「ねぇ、ユウヒ。お願いがあるの。」
そう言うとまた一息間をあけて言う。
「私に愛してるって言って。」
ユウヒは更に情報理解が出来なくなった。何を言っているんだ。そんなこと出来るわけが無い。彼女にユウヒはまだ何も言い返す言葉がみつからない。
「口だけでいい。気持ちなんてこもってなくていい。ただ、ただ愛してるって言って。そしたら私、もう全てを終わらせることが出来る。」
ユウヒはこれで本当に終われるのだと思い、軽く息を吸い、言った。
「カノ、愛してる」
「…ありがとう」
彼女、カノは泣きながら笑った。
そしてぽつりと言った。
「私、ユウヒの所に行くね。もうすぐ着くんだ。」
ユウヒは歩きながら通話をしていた。もう既に校舎前のグラウンドまで来ていた。
「もう着くよ」
寂しそうに、それでも満足そうに、静かな声が風の切る音と共に聞こえた。
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